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<<   作成日時 : 2017/01/13 11:34  

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科学技術振興機構(JST)の研究開発戦略センター(CRDS)の長はノーベル賞受賞者である野依良治氏である。以下は2016年7月の「持続可能な開発目標(SDGs)と科学技術イノベーション」の基調講演である。

http://scienceportal.jst.go.jp/columns/highlight/20160804_01.html

野依氏は理化学研究所の所長を長らく務めてきたが、STAP研究不正事件後、「健康問題」を理由として退任している。CRDSセンター長は健康に不安があっても務まる職務なのか、あるいは急に回復したのかは不明であるが、現在はご活躍のようである。

研究者は専門性が高い職業であることから、一般に俯瞰的な議論を咀嚼するための教養を蓄積する時間に恵まれないことが多い。また、近年の研究がwebの影響でテンポが速いこともまた、専門分野以外の領域の知識を吸収するための時間を奪う原因となっている。しかしながら、科学政策を決定する議論において、研究者不在ではいけないということで、とりあえず科学的な業績の立派な人が代表として議論に参加するということが通例である。時代背景の相違を考える必要があるが、湯川秀樹の時代の科学者の教養と比較すると、現代の科学者に同様の幅広い教養を求めることは難しいので、科学者代表に大きな負担がかかることは否めない。

立派な振る舞いをした人間しか、立派なことを述べてはいけないという考え方は狭量であるが、野依氏のここでの堂々たる講演は、これまでの科学コミュニティにおけるご自身の活動と比較して評価すると、どこか空しく響く。

理化学研究所の変貌は、昨今の「選択と集中」を進めた原動力のひとつであり、既に潤沢な基盤予算をもつ理研の研究者がさらに競争的資金をも食い荒らすという姿は、野依氏主導の理研改革の成果である。国内の研究コミュニティの保存すら思い至らないにもかかわらず、自分が人類文明の存続を訴え続けてきたという主張は苦しい。理研は優れた科学者を国内外からリクルートするという意向であるが、そのためには母集団が一定の水準を維持しなければいけない。しかしながら、理研改革を通じて国内の研究者の裾野を広げる努力が行われてきたとは言いがたい。

現代文明が抱える問題についても、「責任のなすり合いではなく、現世代が総力を挙げて解決にあたらないといけない」という主張であるが、理化学研究所の運営についての真摯な総括すらない人物が述べると些か滑稽である。STAP事件では幹部が責任をなすりあっているうちに自殺者を出してしまった。世界のことは良いので、理化学研究所を健全にしてはどうかと思う人も多いだろう。「時代錯誤の大衆迎合、衆愚的国民投票」というくだりには、強いエリート意識、人類をリードしなければという使命感を感じるが、現代に対する見方としては些か皮相である。欧米で起こっている現象には、富裕層に奉仕する知的エリートに対する反発も含まれている。満遍なく現代のトピックが散りばめられているが、まるでスピーチライターが書いた政治家の演説のようであり、フォーカスは曖昧である。マハトマ・ガンジーや宇沢弘文まで引用されることには驚かされるが、効率重視の市場原理主義的な方向性への反省は、まずは野依氏がリードしてきた研究コミュニティこそが対象となるべきであろう。

講演では「人材育成と価値創造の場づくり」についても言及される。優れた学際的研究者の養成、危機回避に立ち向かうリーダーの輩出の緊急性が訴えられている。大学は、
オープンサイエンスの時代に逆らうように、俯瞰性を欠く多くの有力大学が旧態依然、「内なる存在」として極度に細分化した、専門分野の後継者育成に傾注しています。社会がもはや、それを求めていないことすら認識しない。

と手厳しく批判されており、若手博士の漂流はまさにそのことを証明しているという見立てが述べられている。一方で、人材育成はどうあるべきなのかという新たな提案はなく、何となく時代が変わったから人材育成も変わるべきという、ごく曖昧な場所からは一歩も出ない。小保方さんの振る舞いを見て、我が国における人材育成の失敗を痛感しなかったのだろうか。「社会の再設計に向けた多様な人材源はむしろ先進国以外に求めるべき」という主張は、我が国のことを憂いていた冒頭部と比べると失笑を禁じ得ないが、これはアジアとの連携を目指す政府へのリップサービスなのだろうか。

全体として空虚な演説で、文部科学大臣を目指して努力しているということくらいしか伝わらない。こうしたトップ研究者が、何の反省もなく次から次と、新たなネタを掴んではアイデアを打ち出すような無責任な体制は、研究者、そして長い目で見て国民にとって幸せな状況とは言えないだろう。研究者コミュニティの成熟が必要である。

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