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zoom RSS 「科学嫌いが日本を滅ぼす―「ネイチャー」「サイエンス」に何を学ぶか」竹内薫

<<   作成日時 : 2013/09/14 23:07   >>

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本書は新潮45の連載原稿をもとに加筆修正されたものとのことであるが、単行本化にあたり順序の入れ替え等の編集が施されているため、各項目は比較的まとまった内容の論説になっている。出版社と科学者の間のジレンマの一つは、その本をどう売るかという方向から生じる問題であり、著者の意図しないタイトルが付けられることや、あるいは帯でミスリーディングが与えられることは日常茶飯事である。それにしても著者の作品はきわどいタイトルが多く、著者が科学の応援団を自称する一方で、科学に対する誤解やあるいは攻撃のきっかけを与えることもあったように思う。本書を読む予定はなかったのであるが、Kindle化され少しディスカウントされていたことから旅の友として購入した。

著者に対して持っていた違和感の理由が何かがすっきりしたという意味で収穫があった。個人的な疑似科学体験ということで、著者の経歴が簡単に紹介されているが、著者は科学哲学を学んだ上で物理学科に学士入学している。また、そこで茂木健一郎と出会い親交を深めた様子が描かれている。両者の経歴は自然科学と哲学の両者を学ぶという点で似通っており、そうした経歴が現在の活動にも影響を与えていることは容易に想像できるところである。筆者がすっきりした理由であるが、著者がポパーの考えに馴染めず、「異端児で反逆者の」ファイヤアーベントに愛着を持っていたというエピソードを知ることができた点である。ファイヤアーベントといえば、社会構成主義的な姿勢をもとに科学についても過激な相対化を試みた哲学者であり、"Farewell to Reason"という著作も有名である。当時は何でもかんでも相対化することが善という背景があったとはいえ、自分自身は科学の手続きに対して無知であるにもかかわらず衒学的な哲学議論に科学を引き入れたという罪は大きい。クーンはじわじわと、ファイヤアーベントは華麗に、それぞれ、科学という思考のツールが一般社会に適切に受け入れられることを妨げたと言って差し支えないだろう。彼らの著作がなければもう少し科学という活動への誤解も少なかったに違いない。ファイヤアーベントは、科学のアプローチを学ぶことなく、皮相的に科学を批判したい知識人にとっては格好の教師の役割を果たしてきた。著者が疑似科学に対して比較的寛容である一方で、古典的で社会に対して開かれていない科学者を厳しく批判するのは、ファイヤアーベントの影響を念頭に置けば納得ができる。茂木健一郎があるときには研究倫理を声高に主張し、科学者の態度を糾弾する一方で、テレビで脳科学者と自称して科学の信頼性を毀損するような活動を継続している(科学者でなくてもそのいい加減さには気づくことは容易である)ことも、科学哲学という背景を考慮すると理解しやすい。両者がなんだかんだと理由をつけながらも、きちんとした科学論文を殆ど書かなかったという事実も、研究者になる前に相対主義的な科学哲学の洗礼を浴びていたと考えるとつじつまがあう。
参考:ソーカル事件
http://satoshi8812.at.webry.info/201101/article_1.html
http://satoshi8812.at.webry.info/200801/article_2.html

誠実な科学者としての態度とはどういうものかということを知る上では、脳科学ブームに対する研究者からの冷静な分析である「脳科学の真実」に詳しい。本書の著者や茂木健一郎が世の中では自然科学者の代弁者として目されているということは、大いに問題であり、科学者は地道であまり得るところのない作業ではあるが、誤解を受けるような彼らの論説については批判していく必要があるだろう。

最後の鼎談は分野の異なる現役の先端研究者を迎えたもので、筆者の主導で話題は展開するが、いずれの研究者も文化としての科学という側面に言及している点は大変興味深い。アウトカムに縛られた研究助成は、そもそもイノベーションのタネとなる基礎的な科学研究を枯渇させてしまう恐れがあるが、だからといってバラマキ的に研究者に金をわたせという議論はいまや成立しないだろう。そうした状況において、文化としての科学を楽しみ、そこに価値を認めることは、今後重要な営みとなってくるはずである。

それからどうしても訂正していただきたい点は、大学の研究者に与えられる研究費である。今や国立大学の生命科学分野の研究室は、国からは年間30-100万円くらいしか研究費として支給されていない。10年以上前の最盛期であっても500万円くらいではないだろうか。競争的資金を獲得する花形研究者はこの限りではないが、8,000万円もの研究費を費消しているというイメージで見られてはちょっとやりきれないだろう。いつの時期をとってもこれが平均などと言う時代はない。

(9月16日:一部修正)

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「背信の科学者たち」ウィリアム・ブロード、ニコラス・ウェイド
本書はしばらく前まではブルーバックスから刊行されていたが、絶版状態であった。理研や分生研、医学部を舞台とした論文捏造事件が相次いで報道された本年、まさにタイムリーな再刊といえるだろう。帯にもあるが、大阪大学の仲野先生が強く推薦したこともweb では話題になった。本書は科学者のミスコンダクトを考える上では類稀な事例集となっているが、一方で平均的な科学者像を社会に広める上では非常に問題の多い著作と言える。トーマス・クーンはその主要な著作「科学革命の構造」によって、科学の社会への適切な受容を何十... ...続きを見る
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2014/08/26 21:44

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