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zoom RSS 「朽ちていった命―被曝治療83日間の記録」NHK「東海村臨界事故」取材班

<<   作成日時 : 2012/03/19 00:32   >>

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現在進行中の福島原発事故では、政府には議事録は残されておらず、また東京電力は都合の悪い情報を隠蔽することにかけては国内で一、二を争う企業である。東京電力や一部の官僚は、どれほど批判されようがその方針を変える可能性は低く、虚偽の報告や発表をすることについても躊躇いがない。様々な事故調査が実施されているが、官僚と東京電力というタッグを打ち破ることは一筋縄ではいかないだろう。事故の記録を読むと、決死隊的な行動があったことや、現場の所長が死を覚悟したことが報道されている。一方で、現場で高線量を被曝した方がどの程度いて、実際にどのような治療がどこで行われたかという報道は殆ど見あたらないことから、「今回の事故では死者は1名もいないという事実をよく認識すべき」などという意見をネット上で述べるような人すらいる。今回の事故で、高線量を被曝したと思われる作業員の治療はどうなっているのだろう。これまでに明らかとなった経緯からだけでも、非常に高線量の被曝をした作業員がかなりいることは推測可能である。

本書は1999年に起こった東海村臨海事故の犠牲者の方の治療の記録である。二名の作業者が、ウラン溶液をバケツや漏斗で取り扱っていたという衝撃の事実が明らかとなったが、本書は事故が発生して以降の被曝治療に焦点が当てられている。事故は、裸の原子炉が至近距離で生じたことと同じという説明があるが、中性子線による生体の放射化までもが危惧されたような激烈な被曝である。主治医をはじめ医療スタッフの多くは回復することは奇跡のようなものと考えていたことは間違いない。医療スタッフはこの特殊な事例の重みにからみ取られるように、全力を尽くして治療に当たり、治療中には疑問の声をあげることもない。その結果、末梢血幹細胞移植、皮膚移植が実施され、そして最終的には想像を絶する量の医薬品が投入される。死の直前の記述を読むと、投入されている医薬品の用量に驚きを禁じ得ない。死後の解剖では、肉体の変化の一部は、被曝の影響なのか、あるいは大量の医薬品投与が影響なのか、原因が不明という記述も出てくる。動物実験の計画ですら、「人道的エンドポイント」という基準があり、過剰な苦痛や常軌を逸した薬物の使用には制限がかけられている。実際の人の治療においてこのような無責任がまかり通って良いのか、死の直前の記録については読み進めるのが辛い内容が続いた。

実際、医療スタッフの多くに大きなストレスを与える治療であったことは、研修医や看護師へのインタビューからも伺える。それは主治医や解剖担当医の証言とは対照的である。Youtubeでドキュメンタリーの映像を見ることができるが、医師と看護師との受け止め方の相違は印象に残った。看護師や研修医は、それぞれ、極めて控えめながら、治療の継続への疑問を語っているが、患者、あるいは患者の命が私にこう語りかけているといったファンタジーを織り交ぜながらの回答をする方もいる。患者と自分との物語を作らなければとても耐えられないような体験だったのではないだろうか。スタッフの一人の証言が印象に残った。

本当は、大内さんはつらかったのではないかと、大内さんはこんなつらい思いをしたくなかったのではないかと思ってしまうと、大内さんのためではなくて、大内さんのつらさなど何もわからない人のために、自分は大内さんを生かす手伝いをしてしまったのではないかという、すごく恐ろしいことを思ってしまう。


「大内さんのつらさなど何もわからない人」たちは、10年あまりを経て今回の事故においても「わからない人」ぶりをますます発揮しているような気がしてならない。臨界事故の危険性や、放射能の生体への影響について、作業員に対する教育が不十分であったことは当時強く指摘されていたが、そうした点に対する配慮が事故後どれほど改善されたのだろうか。金がない、あるいは知識がない人に対しては、本人が納得しているのだから、どんな酷い仕打ちをしてもよいという恐ろしい考え方を駆逐していくことこそが人類の進歩ではないだろうか。責任のある立場の人間が恥知らずな言動を表明することについてのハードルは年々低下しているようであるが、まだまだ多くの人はそれではいけないと感じているはずである。本書は文庫化されており、わずか460円で入手することができる。

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