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zoom RSS 「理科系冷遇社会‐沈没する日本の科学技術」林 幸秀

<<   作成日時 : 2010/12/07 22:18   >>

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著者は、東大工学部修士課程を修了後、科学技術庁に入庁し、2003年には文科省の科学技術・学術政策局長、2006年には文部科学審議官、2008年に退官後はJAXA副理事長に就任し、現在は東京大学先端科学技術研究センターの特任教授という経歴をもつ。その著者がこのようなタイトルのもと、「警鐘、提言として」著した本書であり、なにがしか科学行政の意思決定についての事情が分かるのではないかと考え手に取ってみた。

こちらが期待した科学技術に関する政策決定の内幕のような話はまったくないのであるが、一方で、何故日本の科学技術が沈没の憂き目にあっているかという理由の一端を本書の出版こそが明瞭に示しているという意味で、貴重な一冊かもしれない。最初に書いたように、著者は科学技術行政における重要なプレイヤーの一人であり、日本の科学技術が衰退している責任の一端を負うべき一人である。実際、あとがきには、作成過程で「このような状況に立ち至った責任の大きな部分は、君にもあるのではないかと詰め寄られた。」とある。著者は「現職時代に問題点をひしひしと感じ、自分なりには努力してきたつもりであるが、世の大きな動きに対しなかなか抗うこともできず、一行政マンとして限界を常に感じていた日々であった。」と述懐しているが、著者の立場をもってして一行政マンと卑下する姿勢には呆れるほかない。科学技術・学術政策局長や文部科学審議官というのはそれほど権限や責任のない小さなポストだというのだろうか。一生懸命、科学技術を支え、日本の将来を憂うことがあとがきではアピールされているが、そんなものは全て表面的な嘘ではないかといいたくなる内容が本書にはある。むしろ、日本の科学技術を衰退させようとする流れに、不作為という形で与してきたのではないのだろうか。

本書は殆どが現在の科学・技術における日本の危機的な状況を裏付けるデータとその説明に充てられており、最終章で著者の提言が述べられている。前段で些か言葉が過ぎるほど著者を批判した理由は、本書の二つの大きな欠陥にある。一つは、数々の文科省のデータや国際比較等の資料が提供されているが、その吟味が非常に甘いことである。いずれも表面的なグラフや表の見立てに収支しており、何故そうした傾向が生じるのか、あるいは調査方法は妥当なものなのかといった解析が浅い。率直に述べれば、日本の科学行政の抱える欠陥、構造的な問題をデータからあぶり出すという姿勢に欠如しており、どの項目も新聞の見出しのようで、皮相的である。本書にはたくさんのデータがあり、多くはじっくりと考察するべき情報を含んでいるのであるが、本書ではそれらは全て軽く撫でられるだけである。一般の読者は「ああ、大変だなあ」と思うだけだろう。二点目は、最終章の提言の深みのなさである。どの提言を取っても、反対する人は少ないだろうが、「そうなれば良いですよね」と皮肉の一つもいいたくなるような表面的な正論ばかりである。何故そうした提言がこれまで実現できなかったのか、何が障害となったのか、どうすれば提言が具体化されるかといった点こそが議論すべきところである。著者が本にして訴えなければいけない点はそこにあるはずである。ところが本書では、実現に向けた困難や施策に関する議論はすっぽりと抜け落ちている。床屋政談をするのであればそれでよいが、著者は実際に科学行政の決定に関わった当事者である。「理系冷遇」は著者のような理系の官僚により黙認され、あるいは助長されてきたのではないか。

本当に著者が日本の科学行政の問題点について、この程度の浅い議論しかできないのであれば(もちろん本当はもっと鋭い考察や提案をもっているが、現在の立場としては書けないという可能性も残されてはいるが)、「沈没する日本の科学技術」の原因の一つは、著者のような姿勢の文部科学官僚が政策決定のプロセスに大きな役割を果たしているという不幸のように思われる。本書の最終章と、ネット上の研究者の議論(例えば「大「脳」洋航海記」「赤の女王とお茶を」「科学政策ニュースクリップ」など)とを比較すると、緻密さや具体性、様々な点でため息が出るような感想しかもてない。研究者業界は政権移動以降の大騒ぎの中で、文科省の予算獲得をサポートするべく、パブリックコメントを送ったり、学会長連合の声明を出したり大騒ぎであるが、頼りにすべき文科省において本当に科学は国をあげて取り組むべき事業と捉えられているのであろうか。科研費の若手分やPD制度の大部分、大学への運営交付金の一部が「政策コンテスト」の対象となっていることに最初は驚いたが、本書を読む限り、「こうした費用は国の浮沈に関わるものであり継続した予算措置が必要」と主張して抵抗する官僚は文科省にはいないのではないかと薄ら寒い気持ちになる。政策決定者たちは何をもってこれからの国を支えていくつもりなのだろうか。

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