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zoom RSS 「アメリカン・ドリームという悪夢‐建国神話の偽善と二つの原罪」藤永茂

<<   作成日時 : 2010/10/31 23:06   >>

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著者は長年カナダのアルバータ大学教授を務め、例えば「分子軌道法」(岩波書店)という著書があることからも察せられるように、自然科学の研究者である。しかしながら、近年はアングロサクソン的な「白人の欺瞞」とは何かというテーマを一つの軸に、著書やブログを通じた活動を続けている。本ブログでも、著書の一つ「「闇の奥」の奥」を取り上げた。本書でも長きにわたるカナダ生活を通じて著者に大きなモチベーションが生まれてきた様子が描かれているが、いわゆる「白人」と真摯につきあいをする際に感じられる大きな違和感は何かという問題に対して、「「闇の奥」の奥」から一つの明瞭な答えをいただいたように感じている。

インディアンにより助けられ何とか命をつないだ移民たちが、その後彼らを排斥し、それのみにとどまらず、移民たちが原住民に恵みを与えるという「感謝祭」のモチーフを捏造するくだりは、アングロサクソンの暗黒面を余すことなく描いている。単に血にまみれた歴史を隠蔽するだけでなく、自分たちの善行として誇るという倒錯こそはその真骨頂である。クルーグマンをはじめとするアメリカを代表する知識人の多くが、こぞってオバマを黒人大統領として選んだ自分たちこそが人類の進歩を体現する存在であると信じて疑わない、悪意のない欺瞞はいったいどこから来るのだろうか。本書でも述べられるように、我々が欧米人と相互に信頼関係のある友人関係を結ぶと言うことと、この欺瞞とは全く無関係である。本当に素晴らしい欧米の友人ができたとしても、彼らが心の深いところで有色人種に対してどのような心性を持っているのかということを想像すると、決して安らかな気持ちでいることはできないはずである。「アーロン収容所(会田雄次)」では捕虜体験という一種特殊な状況におけるアジア人に対する白人の心性が淡々と描かれるが、それは表面にどの程度表れるかという問題であり、今も何一つ事情は変化していないように思われる。有色人種は約束や信義の対象ではないという明瞭なメッセージはこれまでに何度も繰り返されており、今も欺瞞にあふれた嘘が重ねられているにも関わらず、そうした点が表立って指摘されることはめったにない。アメリカの建国の父たちの間で交わされた生々しい手紙のやりとりの記録は、アメリカという国がその草創期から貪欲を美しい言葉で偽ってきたことをを理解する良い資料である。開拓時代、白人集団からインディアン集団へと逃走した「白いインディアン」の記録は実にたくさん残されているが、逆にインディアンが白人社会に溶け込んだ例は皆無に近いという歴史の記録は、人間らしい生活を送っていたのはどちらの社会であるかを比較する上で興味深い。実際、今なお状況は変化していないのではないだろうか。経済的な優位が世界中から人を集める原動力となっているが、アメリカは一生を過ごす環境としてどれくらい望ましいところがあるだろうか。「アメリカ」というヨーロッパシステムが凝固した失敗を、人類の新たな挑戦のように取り上げ、議論することにかくも多くの人が一生懸命になっているのは何故だろうか。

最近、生物学的多様性の保全に注目が集まっているが、アメリカ的システムはこれに真っ向から対立するものである。ヒトの文明、分化の多様性を否定し、「劣等なヒト」を設定するヨーロッパ的発想の限界はそこここで見いだされている。「パワーエリート」による世界の経営は文明の強度という意味では誠に脆弱なものであり、早晩自滅する運命にあるのではないだろうか。チョムスキーの指摘や本書のような告発を、様々な程度の低い陰謀論と同じ狢として葬り去ろうという動きも近年急である。自分の頭で考えることが面倒になってはおしまいである。

著者のブログ:私の闇の奥
トーマス・クーン解体新書

著者がトーマス・クーンの悪しき影響を少しでも取り除くことを目標に著書を準備したにも関わらず、未だ出版されていないことは大変残念に思う。これからブログで少しずつその内容が紹介されるようであるので、注目したい。上記のアメリカ史への批判と、トーマス・クーンへの批判には通底するものがあり、科学者として(人としてかもしれない)真摯な姿勢とは何かを考える上で、大変重要な記録である。たくさんの嘘の宣伝や過剰な情報の洪水、不誠実な反論、捏造、歪曲の中であっても、声を上げ続けることこそが次の世代に希望をつなぐ営みになると思う。

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