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zoom RSS 「カウンセリングの実際(心理療法コレクションU)」河合隼雄

<<   作成日時 : 2010/04/21 23:24   >>

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そう言えば若い頃にはそうした危機が幾度かあったのかもしれないと思うくらい、思春期の危機というのは遠くなってしまったが、所謂中年の危機(「中年クライシス」という著書もある)や、自らの死とどう取り組むかという課題はより身近なものとなってきた。時間とお金さえ許せば信頼できるカウンセラーの手を借りて自己実現の旅を進めたいという気持ちもあるが、日々の生活からはそうした余裕はとうてい生まれることはない。本書でもたびたび語られるように、必要なときにはその機会が訪れるのかもしれない。著者の数々の著作の中では、様々なこころの問題は、自己実現という高みを目指すこころのはたらきから生じてくるということが度々語られる。この考え方は臨床心理学の専門家である著者の深い経験から導き出されたものであり、客観的データをもって根拠とするような話ではない。著者と同じように考えるかどうかは、理論と言うより、むしろ著者の経験に対してどのような評価を与えるかという姿勢の問題となってくる。しかしながら、どんな人でも内的にはそうした高みを目指すこころの働きがあるという考え方は非常にポジティブで惹かれるところがある。一見したところ、家族がお互いに傷つけ合って、どうしようもないような家庭にもそうした作用が働いているというのは、人間というものに対してとても希望がもてる解釈である。

カウンセリングの経験はないが、カウンセラーと呼ばれる人たちとは何度かお話をしたことがある。現在、国内で河合隼雄の流れを汲んでいるカウンセラーがどの程度の比率なのかは分からないが、確かによく話を聞く受容能力の高い人が多い。一方、本書で何度も強調されるように、カウンセリングではカウンセラーは、非常に注意深く相手の、そして自らのこころの動きに敏感でいなければいけない。そして、時期が来たことを悟る能力も必要である。瞬間瞬間の適切な判断が必要なところなどは、恰もプロスポーツの話を聞いているかのような印象すら受ける。本書では、なかなか言語化しにくい二律背反な側面や、状況に依存した判断の実例などが実に分かりやすく解説されている。なかほどの第五章では実例が紹介されるが、これが実にカウンセラーのルールを逸脱したエピソードであり、著者はこれを実例として語ることにより、カウンセリングの難しさや、カウンセラーの力量とは何かということを如実に示している。

カウンセリングの実例というのは、何か昔話を読んでいるような不思議な気持ちになることが多い。それは思わぬ展開や、符合がタイムリーに生じてくる不思議さのせいかもしれない。カウンセリングに関心のない方でも、「自己実現」に関する著者の様々な話を読むことに本書の意義を見いだせるのではないだろうか。

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「生と死の接点(心理療法コレクションV)」河合隼雄
医療の進歩のおかげで高齢化社会が実現しているが、資本主義や欧米的な枠組みの限界が近年相次いで指摘されるようになっていることを合わせて考えると非常に興味深い。本書に幾度か紹介されるが、欧米における壮年男性を一つの理想とする人生のとらえ方は、現在のように人生が70-80歳まである社会においては、無理があるのは間違いないだろう。欧米でも高齢の実力者が物事を決定することは多いだろうが、この際に高齢者ならではという枯れた判断ではなく、いつまでもアグレッシブな姿勢が好まれるのであれば、勢い誤った判断も... ...続きを見る
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2010/05/11 23:22
「心理療法序説(心理療法コレクションW)」河合隼雄
心理療法家を目指しているわけでもないのに順にこのシリーズを読んでいる理由の一つに、著者が京都大学理学部を卒業し、高校の数学教育に携わった後に、心理療法家への道を歩んでいるという背景に私が大きな関心をもっていることがあげられる。心理療法は科学ではないが、科学の方法論から完全に離れたところに良い理論は打ち立てられないという著者の考え方は、非常に柔軟かつ論理的な(筋の通った)著者の姿勢の根底にあるものだと思う。カウンセリングを志す人で、数学を事実上パスしてしまったような人には河合隼雄の主張は半分... ...続きを見る
読書の記録
2010/06/02 00:29
「ユング心理学と仏教(心理療法コレクションX)」河合隼雄
本書には、国際的に活躍するユング派の心理学者を招いて行われるフェイ・レクチャーで行われた講演が収められている。著者が本書でも述べているように、英語への翻訳を意識して書かれた文章は、国内で著された著作とは少し異なるリズムがある。また、聴衆が日本人ではなく、アメリカ人であるという点も十分意識されていることが伺える。著者を招いたローゼン博士の緒言が付されているが、そこにはこの講演を理解するために払われた努力が伺えるが、一方でローゼン博士にとって率直に理解が困難な部分もあることが仄めかされている。... ...続きを見る
読書の記録
2010/07/04 00:12
「心理療法入門(心理療法コレクションY)」河合隼雄
本書は、「講座 心理療法」八巻のそれぞれの冒頭におかれた著者による概要をまとめて一冊としており、その際に加筆修正が行われている。最後には「こもりと夢」というタイトルの講演内容が収められている。シリーズ各巻の巻頭言なので、執筆者の原稿の紹介を交えながらアウトラインが要約されているという内容を予想して読んだが、それは最初の方だけで、中盤以降は案に相違して濃い内容であり、今回のコレクションの中では最も読むのに時間がかかった。「心理療法入門」というタイトルが付けられていることにも納得がいく内容であ... ...続きを見る
読書の記録
2011/04/25 22:52

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