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zoom RSS 「たまたま‐日常に潜む「偶然」を科学する」レナード・ムロディナウ

<<   作成日時 : 2010/03/05 00:26   >>

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著者はファインマンの弟子にあたる理論物理学者であるが、同時にスタートレックの脚本家でもあり、ゲームプロデューサーでもあり、スティーブン・ホーキングとの共著もある。訳者あと書きでは、そうした著者の業績とあわせて、どうして本書がこのような形で世に出てきたのかが分かりやすく紹介されている。世の中で起こる現象が大いに偶然に左右されているにも関わらず、人間の頭脳がそこに必然性を見いだそうとするために起こる様々な問題が本書では鮮やかに描かれている。巻頭と末尾に置かれたホロコーストのサバイバーである著者の両親のエピソードは、本書のテーマが著者の生き方にどれほど大きな影響を与えているかを特によく表している。

本書にはもちろん数学的な話題も出てくるのであるが、それは著者が繰り出す様々な興味深い古今東西のエピソードに挟み込まれているために、それほど苦になるような内容ではない。巻頭の「平均回帰」という現象は、疼痛のような慢性疾患に何故インチキ療法がつけ込めるかということにも関連しており、誰もが知っておくべき知識であるが、なかなか広く知られることはない。並外れた現象に見えることも、トライアルが多ければ、それほど珍しくもなくなってしまう(「並外れた事象に並外れた原因はいらない」)ことも、よく考えれば当たり前であるが、人間の直感とは相容れない。「モンティ・ホール問題」という確率問題は初めて本書で知ったが、当時のアメリカの大学の数学の教授ですらうまく理解できなかったというのは大変興味深い。後半に取り上げられる「確証バイアス」も、研究者はこの陥穽に気をつけるよう訓練されるのであるが、一般には注意すべき傾向である。人間は、自分の先入観を裏付ける証拠を優先的に探し求めるのみならず、曖昧な証拠(通常、たくさんある)を自身の考えに有利になるように解釈する。この傾向から常に自由でいることはかなり困難である。

それにしても「未来は起こってからしか理解できない」という著者の見解を経済学者はどのように解釈するだろうか。本書にはファンドマネージャーの1991-1995年のランキングに基づいた、1996-2000年の成績という興味深いデータが掲載されているが、それは見事なランダムノイズを示しており、ファンドマネージャーの能力の優劣というのは幻想に過ぎないことが理解できる。経済学者の仕事も、歴史家と同じで、過去に起こったことを解釈することが精一杯で、マクロ経済のような複雑な対象の未来を予知することは原理的に不可能なのではないだろうか。あらゆるマクロ経済の見通しは長期的には素人予想と大きく変わるところはなく、正しい予知が発表される確率は経済学者が何人いて、何度発言の機会があるかにかかっている。

本書を読めば、結局、人間は自分の手に負えないランダム性の巨大な流れの前に立ちすくむしかないのかとも感じさせられるが、一方で、最終章に出てくるこんな言葉には、はっとさせられる。

とりわけ私が学んだことは、前向きに歩き続けることだ。なぜなら、幸いなことに、偶然がかならず役回りを演じるので、成功の一つの重要な要素、たとえば打席に立つ数、危険を冒す数、チャンスを捉える数がわれわれのコントロール下にあるからだ。失敗のほうに重みをつけてあるコイン投げでさえ、ときには成功がでる。あるいは、IBMのパイオニア、トーマス・ワトソンが言ったように、「もし成功したければ、失敗の割合を倍にしろ」ということだ。

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ランダムネスの必然 (たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する(レナード・ムロディナウ))
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OMOI-KOMI - 我流の作法 -
2010/04/03 16:52
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帯には「経済学の“王道”にして最先端」という少々大げさな惹句が書かれており、著者の前書きにも今さらブームに乗ってこうした啓蒙書を書くのは恥ずかしいという気持ちが述べられている。著者は1965年生まれで現在京都大学の教授であることから、おそらく大変期待されている新進の経済学者と思われる。恥ずかしいとは書かれているものの、素人にも分かりやすく解説しようという意気込みが伺える内容である。ベイズの定理と医学検査における医師の判断などは大変面白い課題であり、ムロディナウの「たまたま」でも触れられてい... ...続きを見る
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2010/07/26 23:29
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著者は東京大学の経済学部出身の大学教授である。偶然について、数学的な確率論の話に始まり、大数の法則と中心極限定理について述べた後に、生物の進化における偶然の役割にふれ、「運・不運」の問題、歴史の中の偶然という流れで議論が進む。第5章以降は著者の社会へのメッセージであり、本書の中で大事な部分ではあるが、必ずしもそれまでの議論を滑らかに受けたものとはなっていない。人間の管理の及ばない領域である偶然についての言及は重要なものであるが、その裏には「神」が見え隠れするところがあり、悪しき宗教的なもの... ...続きを見る
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2010/12/10 21:02
「カオスとアクシデントを操る数学‐難解なテーマがサラリとわかるガイドブック」エドワード・B・バーガー
著者らは数学啓蒙、数学教育の分野で有名な研究者であるそうで、著書を読むのは初めてであったが、なるほどと実感できる良書である。アメリカではワトソンの分子生物学やファインマンの物理学のように、超一流の研究者による教科書という伝統もあるが、一方で科学啓蒙・教育を専門とする研究者による教科書や、啓蒙書にも素晴らしいものがたくさんある。出版の究極の目標は両者では異なることから、専門家を目指さない限りは後者の方が楽しくその領域を学べるものが多い。一般向けの啓蒙書は、対象とする読者のレベルをどう設定する... ...続きを見る
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2012/01/15 22:37
「偶然の科学」ダンカン・ワッツ
物理学者から社会学者に転身した著者は、現在コロンビア大学社会学部教授でかつヤフーリサーチ主任研究員である。スモールワールド・ネットワークに関する著書でも有名である。本書では冒頭からオールドスタイルの社会学者であれば目をむいて怒り出しそうな社会学についての著者の考え方が述べられるが、著者が自然科学の世界から転身したことをふまえればごく自然な発想であることが理解できる。社会学においては取り扱うべき要素の数や、関係は複雑すぎて、何らかの普遍的な法則を打ち立てることは原理的に難しい。著者は、自然科... ...続きを見る
読書の記録
2012/04/30 22:29
「明日をどこまで計算できるか?―「予測する科学」の歴史と可能性」デヴィッド・オレル
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2012/07/10 23:29
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2013/03/20 17:29

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