「宇宙はなぜこのような宇宙なのか―人間原理と宇宙論」青木薫

翻訳家として数々の素晴らしい作品を紹介している著者の書き下ろしということで、感謝の気持ちも込めて購入。人間原理をめぐる議論は日本人には些か分かりにくい。西洋人は正負の両面で神の問題から逃れることが難しいために、本書のテーマである人間原理についての議論は複雑な展開を見せるが、日本人にとって多宇宙ビジョンは実は「しっくりくる」説明ではないかと思う。

本書の中心的なテーマである「人間原理」や「観測選択効果」についての議論は、本書のかなり後半になってはじめて登場する。序盤の哲学的議論についての説明が丁寧であることと比較すると、「観測選択効果」の説明は通り一遍で淡泊な印象を受けた。もう少し様々な実例や喩えでしっかり説明した方が良いのではないだろうか。よく考えれば日本人にとってより簡単に理解できる事であるが故に、説明不足が際だっているような気がする。ここをしっかり議論することで、日本人が「人間原理」の議論を消化できない理由も見えてくるかもしれない。

西洋人は、宇宙にまつわる様々な定数やスケールは、人間存在と無関係に、数学的、物理学的に、究極は定めることができる性質のものという認識を持っている。しかしながら、実際には、様々な可能性がある中で、たまたまこの宇宙に私が所属する。しかも私たちが存在できたという一点をもって、事実上無限の可能性のあったたくさんの宇宙像は絞り込まれる。

「コペルニクス的転回」などという言葉もあるが、当時のコペルニクスの見解は科学の営為としてはむしろ保守的な位置にあり、後世の評論家がコペルニクスの業績を紹介する際に犯した勇み足が今なお影響を与えているという話は興味深いものであった。「アカデミー・フランセーズの会長であったフォントネルが、サロンの主催者らしき知的な女性を相手に最新の科学知識について語るというスタイルで書いた一般向け教養書」がコペルニクス的転回の出所とのことであるが、今も同じように基礎科学の営為を「知的な女性相手に」勝手に自分の解釈で曲げている例は決して珍しいものではない。

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