「「しがらみ」を科学する」山岸俊男

若者やあるいは百戦錬磨の老人にとっては本書の評価は容易なのかもしれないが、中間的な年齢層の読者にとっては何とも評価が難しい。若者向けのプリマー新書なので、著者の語り口も自由であるが、冒頭のエピソードなどは全体の中ではちょっと浮き上がっているし、「意欲的に語ってやろう」という意識が強すぎるように感じられた。語り口調もばらばらで、急になれなれしくまとわりつくかと思いきや、急に丁寧な説明になってしまう箇所もあり、幾分読みにくい。

「しがらみ」を「科学」的に考える上で、クジャクの羽根の進化的な適応の問題は本書において重要な位置づけにあるが、今ひとつしっくりとこない説明であった。生物の進化的な適応変化と社会のインセンティブの問題がアナロジーとして語れるのかという点が気になりだすと、その後の説明がうまく頭に入っていかない。派手な羽根には生物学的なリソースも割かれるし、天敵に攻撃を受ける可能性も高い。著者は、派手好みのメスが多い、即ち派手なオスがもてることをもって、過剰な適応が促進されるメカニズムを解説するが、それが人間社会の「しがらみ」をつくるインセンティブと似ているのだろうか。社会における「しがらみ」はもう少し心理的な要素が強く、自己欺瞞が色濃く影響するのではないだろうか。うまく疑問点を説明できないが、自分の中では違和感が残った箇所である。

著者は人間社会の仕組み、インセンティブを理解すれば、いじめや同調圧力に悩む若者にも新しい見方を提供できるとしているが、実際のところどう行動するべきかという指針を与えるところには行き着かない。うまく解説するところまではいかないだろうが、著者の指すインセンティブの作用については、若者は実感としてはかなり正しい認識をしているのではないだろうか。社会ではたらくインセンティブについてさらに理解が進んでも、明日から引きこもりをやめようということにはならないだろう。むしろ「しがらみ」の強固な仕組みに絶望するかもしれない。

著者は広がりすぎた「空気」を「法律」や「契約」に部分的に置換することで「生きやすい」社会の構築を目指しているとのことである。社会を良くするインセンティブを設けるという方向性はとても良いものであるが、一方でそうしたインセンティブが有効に作用するためには、現在のように教育に対する考え方がクラスによって分断されているような状況の改善も必要だろう。よりシニア向きの著書の内容を読んでみたい。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック