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zoom RSS 「昨日までの世界―文明の源流と人類の未来」ジャレド・ダイアモンド

<<   作成日時 : 2014/09/07 00:21   >>

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著者は「銃・病原菌・鉄」や「文明崩壊」といった著書で有名な研究者であるが、その取り扱う領域は広大であり、学問の専門化が著しい近年にあってそのパースペクティブの大きさは特筆すべきである。本書はその中でも著者のフィールドワークの世界と近い内容であり、経験談もしばしば登場する。タイトルにもあるが、先進国の人々が現在享受している文明やライフスタイルはそれほど歴史があるものではなく、人類の歴史の中ではごく最近生じたものであることが、様々な事例を通して何度も確認されていく。

「健全なパラノイア」という言葉で紹介されるが、著者がフィールドワークの途中で、無謀なボートの運転をする若者のせいで危うく命を落とすところであったというエピソードは大変興味深かった。先進国の人々は、自分の命を何かに預けることについての警戒心が低下している。考えてみれば高速道路での運転や長距離バスの利用など、いちいちそのリスクを考えて判断しているケースは少ない。一方で「昨日までの世界」に生きている人たちは、周囲の変化に細心の注意を払い、自らのリスクを少しでも減らそうとしている。命のかかる状況では、一日二日の遅れは全く問題にならない。一方で、先進国の人間は危険の多い状況ということが認識でいているにも関わらず、予定通りの行動に拘り、致命的な危険に直面する。著者は「昨日までの世界」に回帰することを勧めているわけではないが、「昨日までの世界」にあった知恵や判断が、先進国においてあまりに軽く見られていることについて読者の注意を促している。

欧米における社会問題の増加、深刻化は、彼らの考え方に影響を与えており、自分たちの考え方と異なる思想やライフスタイルへの関心が高まっている。東洋思想への関心はその一環と思われるが、本書のように時代を遡って人類のあり方の見直しが注目されることもある。背景の異なる絵のようなもので、前景にある人間の営みは殆ど変化しない(紛争や協働、繁殖など)ことを思い起こせば、人類のあり方を過去に遡って検討することの価値がいかに高いかは想像に難くない。日本人の私たちは著者とは違って、「昨日までの世界」にむしろ親和性を感じることもあるだろう。滅びないための知恵というのは、むしろコンテキストを重視して、調和を優先するところに生まれるのではないだろうか。

下巻に相当する部分では、宗教の問題も取り上げられる。理由を求めるという人間の性向が、科学的思考と、宗教の両方を生み出したという指摘は分かりやすい。科学的思考法の最後の敵は宗教であることは様々な論者が指摘しているが、全ての事象を科学が説明し尽くすことはないということを考えると、宗教がなくなる日というのも永遠にないのかもしれない。

災害や戦争は一瞬にして文明の仕組みを破壊し、「昨日までの世界」に人々をたたき込む。人間の変わらない部分、変えることができる部分をあらためて見直すという意味でも本書は価値ある一冊である。

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