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zoom RSS 「これから「正義」の話をしよう―いまを生き延びるための哲学」マイケル・サンデル

<<   作成日時 : 2013/03/20 17:29   >>

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メディアミックス的な盛り上がりで大いに話題になったサンデル教授の著作をKindle本で発見して購入した。NHKで取り上げられ有名になった講義スタイルは、国内でも真似をする教員が後を絶たず、学生にとっては大いに迷惑であったに違いない。基本的に討議スタイルで講義を行うためには、受講者も相当なインプットが必要とされるとともに、講師はさらにそれを上回る知識と十分な考察をもって授業に臨む必要がある。また、時間内に何らかの考察に耐える結論を引き出すためには、どのような議論の展開があるかという予測ができていなければならない。

「正義」の話というと日本人の感性では胡散臭く感じる人が多いだろうし、例えば「正義を振りかざす」という表現はどちらかと言えばマイナスの印象を帯びている。日本人の行動規範は「お天道様に恥ずかしくない」という言葉が端的に表しているが、さてどうして恥ずかしいのか、あるいはどういう行為は恥ずかしくて、どれはそうでないのかという源泉を考えると、これは西洋哲学にも通じる話題として考えることができる。

個人的な収穫は、筆者がこれまで関心を持ってきた確率統計的な世界観と、著者が主張している「正義」とのつながりが想像以上に深いものであることを理解できたことだった。哲学領域の基礎知識に欠けるので十分な理解ではないだろうが、ロールズの議論は抵抗なく受け入れることができた。社会には多様な人間が存在し、成功しているものもあればそうでないものもある。そしてその「成功」は極めてあやふやなものである。例えば日本に生まれるという偶然は、国家の経済状態や教育環境等を考えれば一種のアドバンテージと考えることができる。本書でも川を挟んでアメリカとメキシコに生まれることの違いが議論されている。あるいは、「カリスマトレーダー」は本当に予測能力に長けているから、莫大なサラリーを支払う価値があるのかという統計学における議論を振り返っても良い。10円玉の表が10回連続することは、超能力かいかさまと考えがちであるが、数千人の人が同時に試行すれば別に珍しいことではない。社会における「成功」には様々な不確定の「たまたま」としかいいようのない要素があり、これを全て個人の能力に帰するという考え方は誤りである。すると、ちょっと間違いがあれば惨めな生を送らなければいけない社会は望ましいのか、社会的な成功者は無尽蔵の富に値するのかといった疑問点が生じることは当然だろう。資本主義社会の最も大きな失敗は、偶然生じたことと個人の資質(能力や努力)の評価が人間の直観のみに基づいており、正当な評価が下せていないことであろう。

著者は、人が生きる上での正しい価値観というものを設定することは極めて困難であり、そのため不断の活発な議論が必要という考え方である。生命科学の専門家としては、生物とは自らの種が崩壊しない程度のポピュレーションを維持して継続すること(そして可能ならば拡大すること)が至上問題であり、人間といってもここからは離れることはできない、もしあるとすればこれこそが唯一の原理であると考えるのであるが、説得力のある議論が展開できるかどうかは何とも言えない。同性婚の話題で、生物的に子孫を残せない組み合わせに意義を認めないのであれば、不妊カップルは結婚できないのかという疑問には、自分の考えは浅いと認識せざるを得なかった。生物活動というカテゴリーをはみだした人間存在とは何かという問題は生命科学の範疇では議論するのは難しい。

全くの付け足しであるが、AIGの破綻回避の際に国費が投入されたにも関わらず幹部社員に莫大なボーナスが支給されたというニュースに対するアメリカ人の反応についての解釈に驚かされた。日本人の感覚では、「そもそも故意に行っていたギャンブル的な投資を失敗したことで、他人に尻ぬぐいをしてもらったにも関わらずボーナスとはどういうことだ」という感じで、ギャンブル的な投資を故意に行うことが悪であり、悪事を働いた人間にボーナスを税金で支払う必要はないという意見が多いのではないだろうか。本書によれば、アメリカ人の憤りはAIGのビジネスモデルにあるのではなく、「社会的に失敗した人間がボーナスを得るのはおかしい」という点にあるらしい。成功した人間はいくらでもそれに見合った報酬を得る権利があり、そこには上限は存在しないというのがアングロサクソン的な価値観と思われるが、そのちょうど反対と考えれば良いのかもしれない。もう少し敷衍すると、詐欺的な事業モデルであっても、社会的に需要があって儲かるのであれば悪いことではないという考え方だろうか。国内でもそうしたビジネスは少しずつ増加しており、興味深い。

統計学関連の書評:
明日をどこまで計算できるか?」デヴィッド・オレル
偶然の科学」ダンカン・ワッツ
たまたま」レナード・ムロディナウ

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