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zoom RSS 「適正技術と代替社会―インドネシアでの実践から」田中 直

<<   作成日時 : 2012/11/12 06:30   >>

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著者は東京大学工学部卒業後、石油会社で精製プロセスの業務に関わる傍らインドネシアでの国際協力活動に参加し、その後設立されたNGOでは最終的には石油会社を退職して専従として、本書で取り上げられる適正技術の開発に取り組んできた。「適正技術」とは何だろうと考えて本書を手に取ったが、こうした考え方は人類の将来を考える上で大変重要なコンセプトであると同時に、単なる理想論としてではなく間もなく現実的な課題になっていくのではないかと感じた。

化石燃料というものは、地球が長期間かけて太陽から得られたエネルギーを蓄積したものである。本来地球上に存在する全ての人類がその使用権を等しくものとすると、先進国は既に他の国々に借りがある状態であるという考え方は理想主義的であるが、大事なことは現在の先進国と同様の発展が世界中で起こることはあり得ないということである。即ち、先進国をモデルにした開発は現実的な目標とはならず、今後の途上国の開発は別のモデルを開拓していかなければならない。著者はまさにその具体例を実践しており、実際の技術に密着した経験は大変貴重なものである。一方、これが途上国だけの問題かといえば、そうではなく、エネルギー問題が行き詰まりを見せている中、先進国においても近未来には必要とされる技術なのではないかという提言がなされている。人間が現実的に太陽から得ることができるエネルギーを有効活用して現在の人口(増加し続けているところが難しい問題であるが)を養うことを考えた場合、適正規模の技術というものがあるはずという考え方は非常に納得できる結論である。

著者は途上国の開発や先端技術を単に否定しているわけではないことも本書の主張の重要な点である。科学技術は、人類の知識を広げたり、宇宙へ飛び出したりすることに加えて、既存の技術を途上国の設備やリソースでも利用できるように改善するためにも活用することができることを著者は実践をもって示している。エネルギー問題の行き詰まりから目を逸らすために、近年原子力発電が推進されてきたが、事故の確率やその際の被害が今後コントロールされ、減少していくという可能性に期待したところで、一旦地表に出現した廃棄物の生物に対する危険性は些かも変わらない。ダイエット中の人にとっての甘いお菓子のようなもので、少しだったら美味しいからいいだろうと思って食べているうちに、メタボリックシンドロームになって早死にする、現在の人類はそういう将来を辿りそうである。大腸菌を培養すると、培地に栄養のある限り細胞分裂してやがては全滅する。地球の場合は、持続的にエネルギーが一定量付加される条件ではあるが、近年の人口増加曲線は大腸菌も真っ青の勢いである。本書のような理性的な取り組みこそが人間らしい活動であり、現在の危機を自ら脱することができて初めて自然界の一員に加わることができるのではないだろうか。

著者は誰もが参加できる技術という方向性の重要性も指摘している。ITの進化や大工場、ロボットの出現は人間の関与レベルを一貫して低下させてきたが、一方で修理不可能な機器の出現や大規模な失業問題を生んでいる。格差問題は強欲な資本家の姿勢に問題があるだけではなく、技術の独占が拍車をかけているという側面がある。技術を人間の手に取り戻すことは、適正規模の経済への移行を進める上で重要な要素となるだろう。

医療においても現在、iPS細胞が国内では熱狂的な期待を受けているが、iPS細胞を利用した再生医療、ヒトのクローン的な利用はあくまで先端医療であり、設備の整った医療機関とそれを駆使できる人的リソースがないかぎりは利用価値がない。「適正技術」的な考え方を採用すれば、やはり化学工業として実現できる低分子医薬品の開発こそが本流で、劣悪な衛生環境、あるいは医療リソースが極めて低いレベルにおいても利用できる低分子医薬品の錠剤こそが本流ではないだろうか。幸い、iPS細胞を利用すれば擬似的な人体実験を通じた医薬品開発が可能となる。

著者は大学では生化学を専攻されていたようで、その後最初に述べたような経歴を歩まれるわけであるが、淡々とした文章の中にも非常に明確な意志を感じることができる。信念をもって仕事に取り組む人のみが、人類の新しいフェイズを切りひらいていくということを改めて認識することができた。

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