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zoom RSS 「疑似科学入門」池内了

<<   作成日時 : 2012/05/20 00:18   >>

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著者はこれまでにも科学を対象とした議論に関する著書を上梓されているようであるが、私自身は不勉強で本書で初めての出会いとなった。疑似科学に関するネットの議論で「予防措置原則」あるいは「予防原則」という表現が登場することがあるが、本書における提言が含意されていることが分かった。そういう意味では、2008年の本書は既に議論の出発点として重要な著作として認識されているのかもしれない。

内容は自然科学者らしく、きちんと疑似科学の類型が整理されており、様々な疑似科学の実相を整理した形で頭に入れることができる。特に複雑系であるがゆえに古典的な科学が未だうまく取り扱えない非線形科学に関する話題を、あえて第三種の疑似科学として取り扱った点が本書を特徴付けている。科学が取り組めそうであるがうまく結果を出せない問題と疑似科学の分別は極めて困難であり、これを困難であると明瞭に言明して、とりあえずは第三種という形で疑似科学の大きなくくりに入れておくというのは自然科学者としては筋の通った対応である。地球温暖化や低線量放射線の健康への影響など、まだ科学が判断を下せない問題は多い。こうした問題について慎重な(謙虚な)態度を取ることは科学者としての重要な資質ではないだろうか。分かっていないことについて結論めいたことを述べる科学者は政治的である。

低線量の放射線の慢性的な影響についてはよく分からないことが多いが、ネットでも複数の(主として物理)科学者が、「取るに足りない懸念である」あるいは「疫学的に見えないような影響にリソースを割くのはナンセンス」ということをしきりに主張している。こうした言明は科学者に時に生じる傲慢さなのだろうか?あるいは科学的な推論に基づいた適切な判断なのか。本書の著者に従い謙虚な態度でこの問題を考えると何が言えるだろうか。

1.発がんのリスクについては確かに統計的には他の要因に埋もれてしまうような相違しかないかもしれない。喫煙者が禁煙する方が、遙かにベネフィットが大きいというのもおおむね妥当だろう。一方で、統計的に見えないことと、無影響(原因とはならない)との間には一定の距離がある。誰にも区別はできないが、本当は低線量被曝の影響でがんを発症するという可能性はある。世界的には比較的高線量の地域はあり、そこでも統計学的に有意に発がんの確率が高いわけではないという報告もあるようである。しかし、発がんのメカニズムにはまだまだ不明な点も多い現状で、低線量被曝と発がんの関係を一切気にしなくて良いというのは少し問題がある。柳田先生もブログで指摘されていたが、統計的な評価は集団についての判断においては重要であるが、個別の人間においては別の考え方も必要である。被曝に対する遺伝子修復系の能力は個々の人間によってある範囲でばらつきがある。そのばらつきは簡単に調べることができないわけであるから、自分が低線量の被曝に極めて高い感受性をもつという可能性については簡単に捨て去ることは難しい。そうしたことを全て理解した上で個々人が判断を下すことが望ましいが、現実には難しい。政府の判断としては国民を対象として「統計学的」に判断をするしかないので、非常に確率の低い被害事象については明確な証拠がない限りは(そしておそらくそれを得ることは難しいが)補償されることはないだろう。

2.慢性的な低線量被曝が発がん以外の疾患と無関係であるかどうかについても、まだ結論らしきものが出ていない。被曝と炎症の発症とは因果関係があるが、近年の生命科学の進展は、弱い炎症が慢性的に継続することが種々の疾患の発症と関連することを次々と報告している。低線量の被曝についてはこれらの疾患との関連については疫学的なデータも少ないはずであり(着目されていなかったため)、早々にシロと結論を下せる状況ではない。疫学調査においても最初の仮説の決定は重要であり、仮説のない調査から万能の結論を引き出すことは不可能である。

著者の基準に従えば、低線量被曝の健康への影響は明らかに第三種の疑似科学に分類される事象であり、ここでももし予防措置原則を講じることが上策であるならば、全く健康被害はないと断定してしまうことには問題が残るだろう。もちろん2008年の著作にそうした例が出ているわけではなく、上記は私の勝手な推論であり、我田引水かもしれない。

本書の内容は素晴らしいものであり、説明も極めて明快である。但し、論旨の展開は非科学者にとっては少々スピーディーすぎるかもしれない。また、含みの多い議論の進め方は、白か黒かという議論しか経験したことのない読者には些かストレスを強いる可能性もある。しかしながら、ゆっくり行きつ戻りつしながらでも読む価値はあるだろう。

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
MIT から低線量被曝影響の研究論文〜自然放射線の400倍でもDNAへの過剰影響なし―【私の論評】なぜこのような重要な情報が顧みられないのか?
http://goo.gl/gJaU6
こんにちは。それにしても、このようなことが理解されれば、遅々として進まない、瓦礫の処理がもっと進むと思います。似たような調査結果は、すでに、1990年代にアメリカでだされており、2000年代に入ってからは、専門家の意見もかなり変わってきていました。それどころか、低線量の放射線は、体に良いという「ホルミンス効果」なども指摘されていました。こうした情報が日本で顧みられないのは、なぜでしょうか?石油メジャーとか、電力、天然ガスを日本にも売りたいと考えているロシアの影響もあるのでしょうか?とにかく、みえないももの恐怖にさいなまされて、真実を見失うことだけは、避けたいものです。詳細は、是非私のブログを御覧になってください。
yutakarlson
2012/05/25 09:51

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