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zoom RSS 「サイエンス入門T」リチャード・ムラー

<<   作成日時 : 2011/11/14 23:03   >>

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本書は、カリフォルニア大学バークレー校における学生が選ぶ「ベスト講義」の一つをベースにしたもので、YouTubeで公開された講義は大きな反響を巻き起こしたようである。この講義は文化系学生を対象としたものであるため、本書には当然のことながら化学式や数式は殆ど登場しない。おおよそ四則演算とべき乗くらいが計算できれば内容を理解することはできる。しかしながら、著者も文中で指摘するように、理系学生がサイエンスの原則的な項目を全て理解しているかというとそれは怪しいものであり、特に私のような生物系の自然科学者にとっては十分勉強になる内容である。

一般向けに良い科学の本を書くためには、たくさん注意するべきところがあるが、本書では冒頭からたくさんの「計算」が登場する。ともすればこうした部分を避けて書くことがポピュラーサイエンスの要諦と考えられがちなのであるが、サイエンスはスケールの学問であるという点を重視した著者の判断は正しい。簡単な計算を通じて、サイエンスが扱うスケールを理解し、それを身近なものとの対比の中で認識することが何よりも良い方法であるという確信が著者にはあるように思われる。文系の読者で最初の仕事率の章くらいで躓いているようであれば、読み飛ばさずにきちんと計算をしてみてはいかがだろう。光速という途方もなさそうな数字であっても、コンピュータのサイズ問題として説明されると、実感の持てる数値として認識することができる。「2001年宇宙の旅」のHAL9000が巨大なコンピュータであることが科学的に誤りであることは、本書の中で分かりやすく取り上げられている。

本書には原子核と放射能のセクションもあり、期せずして昨今必要とされる知識がコンパクトに紹介されている。物理学的な内容の説明については他のセクションと同様、パーフェクトな内容であるが、一方で危険性については甘い見通しが語られているのは専門外ということを考慮すれば仕方ないかもしれない。真の出典がどこかは不明であるが、プルトニウムと青酸カリ、ボツリヌス毒素との致死量の比較といった些か筋の悪い議論は本書が出発点なのかもしれない。致死性の毒物と、遺伝子に傷害を与える放射性物質であるプルトニウムとは本来、区別して評価されるべきものであり、両者の致死量をグラム単位で比較することは欺瞞的である。また、今や巨大な量が地球上に生み出されているプルトニウムと、微生物産物であるボツリヌス毒素では、人間が遭遇する確率や大規模汚染が起こった場合の被害など、注意が必要なレベルがあまりにも異なっている。「多くの科学者が、プルトニウムは危険な放射性元素のリストに入れるべきではない、と言っています」(なぜなら難水溶性のプルトニウムは地下水を汚染しにくく、LD50は0.5 gだから)という本文も、アメリカの物理学者らしい意見であり、遺伝子に対する影響を過小評価している言及である(「多くの科学者」は多くの「物理学者」なのかもしれない。国内でも「プルトニウムは飲んでも安全」と公言した学者が居ることはよく知られている)。ヒトへの被害は何も致死的影響ばかりではなく、発がん、そして生殖細胞への傷害など、いずれも未知の困難な問題がたくさん残っている。第5講に見られる放射性物質の安全性に対する著者の意見は、優れた科学者が領域外分野におけるリスク判定を誤る例として興味深い。最終的に著者の結論は穏やかなものであるが、著者自身のリスク判定は原発事故前の日本の学者達と同程度に甘そうである。

少し紹介から脱線したが、ロズウェル事件の真相から説明が始まる第7講はとりわけ面白い内容である。軍の機密情報でもあったために、多くの科学者が知りながらも紹介できなかった自然現象であるが、それがUFO騒ぎにつながってしまう。「食い違う話がある場合には、どちらがより想像力に富み、より魅力的か、ということを基準にすれば」という著者のアイデアは、陰謀論やデマがいかに貧弱な想像力の産物であるか、また自然はいかに魅力的な存在であるのかという著者の主張を端的に示している。著者のような講義が教養レベルで受講できる大学生は幸せな境遇である。

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Uではいよいよ光や量子物理学、相対性理論が取り上げられる。また気候変動についても一章が割かれており、科学者がこの問題をどう認識、評価しているかというプロセスを垣間見ることができる。本書で取り上げられる項目はTに負けず劣らず、現代社会を支えるテクノロジーと密接な関係をもつ。一方で、量子物理学が記述する奇妙な世界は、著者の力量をもってしても、人間の感覚では想像できない奇妙さであることを述べることでしか説明できない。一流の科学者をもってしても、要領を得ない文章で記述するほかない量子物理学のユニー... ...続きを見る
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2012/09/14 23:45

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