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zoom RSS 一流経済学者の講演における似非科学問題

<<   作成日時 : 2011/09/04 15:15   >>

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小さなことの揚げ足取りのように受け取られる可能性はあるが、日本学士院賞受賞者でもある大竹文雄さんの講演内容をwebで読み、あらためて「文系」的な意志決定の問題点について考えてみた。「理系」的な発想の典型が自分の考え方であるとはとても思えないが、違和感を感じる部分が何かを書くことで、考え方が整理できるかもしれない。


講演では所得を決める要因について日米でアンケートを採った結果が紹介されている。努力や運、才能、家庭環境、学歴、が選択肢となっており、運や才能に対する認識が日米で随分違うことが明らかとされている。実際にどのような質問文かは分からないが、運や才能という単語について持つイメージは日米で随分異なるように思う。広い意味ではどのような家庭に生まれるかという問題も「運」と考えることもできる。もう少し厳密な定義のもと実施しなければ、両国で同じ質問をしているようで実は異なる内容のアンケートをしているという可能性もある。また、アンケート対象が同程度の教育水準であるかどうかも結果に大きな影響を与えるだろう。所得や職業、年齢等、意識調査に大きな影響を与えそうな要因はたくさんあるが、それらについての情報は与えられず、総括的に演者の結論が述べられている。

この講演ではアメリカにおける研究が盛んに取り上げられ、羅針盤とされている点が特徴的である(文化のからむ議論でここまで海外の研究に依拠して良いのかも気になる点である)が、「価値観の経済への影響」の節では極めて粗雑な議論が進められており、驚かされる。「教会に行く人たちが多い国ほど経済成長率が低い」「天国や地獄を信じている人の比率が高いと経済成長率が高い」といったデータをもとに、それらの因果関係を求めるという方向で議論が進むが、これは典型的な「文系」的な議論のように感じる。相関関係が生まれる条件には様々なものがあり、因果関係により生じる例はそのうちの一部である。因果関係が逆転していること(経済成長率が低いために、教会へ行く人が増えるといった可能性)や、特に直接の因果関係がないが相関が生じる場合がある。相関関係の背後に因果関係を仮定して解析を進めること自体は、一つのアプローチとして間違っていないが、往々にして無理矢理結論が導出され、全く説得力のない議論になってしまう。世界各国のIBM社員を対象に行った調査(かなり特殊な母集団である)から、「今は技術革新の時代だから、技術革新が盛んになる個人主義のほうが有利ではないか」という結論を得た研究が紹介されるが、どう推論すればそのような結論が出るのか全く不明である。一見して極めて低レベルの研究のように見えるが、本当に言及する価値があるのだろうか。

最後に紹介される研究は完全な似非科学で、文系の「偉い」学者や識者がいとも簡単に非科学を受け入れてしまう実例を見ることができる。

【紹介された研究の議論の流れ】
個人主義の程度を規定するのは遺伝的要因かもしれない→遺伝的な要因を反映する変数と個人主義の程度を調べる調査の相関を調べてみる→血液型分布(遺伝的に支配される要因の一つとして彼らが任意に選択したもの)と個人主義の程度は見事な相関を示した(個人主義の程度がアメリカに近いほど、血液型分布も近くなる)→生物学的な要因から文化は規定されるが、現在は個人主義の国が有利になっているのではないか

突っ込みどころ満載で眩暈を起こしそうになるが、これほど低質な研究を紹介して、演者は「この議論が正しいとすれば、日本はまだ希望が持てます。国際比較のデータを見ると、日本は前述したように集団主義の国ではなく個人主義との中間です。そうすると、どちらが優位になっても生き残っていけるでしょう。」と締めくくっている。どういう事情でこんなことになってしまったのかはよく分からないが、非専門の分野が含まれているとはいえ、議論の展開がお粗末すぎるのではないだろうか。演者は「つまり、分布の特性であって、B型は個人主義などと言う話ではありません」と付け加えているが、これは演者がこの研究の出鱈目さが理解できないという深刻な問題をさらにはっきり浮き彫りにしている。

数学者はいくら気を抜いていようが、高校数学を間違ったりするようなことはない。演者は日本の代表的な経済学者の一人らしいが、講演とはいえ、これほど出鱈目な議論を展開してしまうという点に、日本の「文系」教育の大きな問題点があるのではないだろうか。

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