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zoom RSS 「未曾有と想定外―東日本大震災に学ぶ」畑村洋太郎

<<   作成日時 : 2011/08/04 00:49   >>

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著者は東京大学工学部の名誉教授であり、「失敗学」を提唱し、数多くの関連する著作があり、私もそのいくつかを読んでいる。現在は、畑村創造工学研究所をベースに活動しているが、最近、原発事故調査・検証委員会委員長に任命されたことで一般の人たちにも広く知られるようになった。現在は、科学技術振興機構から自らの研究所のページに移されているが「失敗知識データベース」という試みもユニークなもので、事例を読み、あるいは「失敗まんだら」についての記事を読むことで、「失敗学」の姿勢の一端を知ることができる。

民主党の失敗の一つは、官僚組織に対抗できるレベルの自前のブレーン集団をもつ政治家がいないことであるという指摘があり、それが最終的には財務省の軍門に下る原因であるという分析もある。確かに人材起用については、たくさんの「令外の官」はおかれたが、成功している事例は少なそうである。その中で、著者の「原発事故調査・検証委員会委員長」への起用は、数少ない成功例の一つと言えるだろう。本書は、委員長として事故検証の仕事が一旦始まると、報告書が仕上がるまでは、対外的な発信が難しくなることを意識して、大急ぎで執筆、発刊されたようである。よって「大震災に学ぶ」とあって原発事故についても言及があるが、それらは委員長としての活動が始まる前の著者の見方、および意見である。

日本の将来を脅かしている様々な問題の解決には、従来の東大法学部出身を中心とした文系リーダーのみでは全く間に合わないということを本ブログでは何度も述べているが、本書を読んでいただければ、私が意図するところをもう少し分かっていただけるのではないだろうかと思う。著者のような人材こそが、今後の復興や防災の青写真作りに積極的に関わるべきであるが、今後の政権が調査・検証委員会の提言を採り入れた施策が実施されることを期待したい。

さて、内容であるが、従来行われてきた津波対策について、その考え方の変遷や、今回の震災においてどの程度有効であったかが議論されている。当たり前のことであるが、完全に崩壊した防波堤であっても避難の時間稼ぎにはなっている。冷静に対策が評価され、「力で自然災害に対抗する」アプローチの失敗が論じられている。また、何度津波の被害に遭おうが海辺へと住まいを移してしまう人間の性向や、防波堤の外に住まいがあった人がその危険性を熟知するが上に、きちんと避難している例など、単に工学的な安全性を説くばかりではなく、人間の防災という観点から重要な指摘が随所に見られる。

もう一つのテーマである原発事故については、冷静な文章の中でも随所に「原子力村」の杜撰なシステムに対するi怒りが垣間見える。印象に残った言葉として、「想定するのが専門家の責務」という言葉がある。科学者は自然現象を丁寧に調査し、その中に見いだすことのできる法則性をもって、将来を予測する。予測の検証は、時間が自動的に行う場合もあるが、科学者自身が実施する実験によっても行われる。科学者の重要な責務の一つは、自然現象を近似するモデルをつくって、精度の高い予測を行うことである。そういう意味では、原子力安全委員会の委員長が、稀にしか起きない事故に対応していてはきりがないという認識を持っていることには呆れるほかない。委員長は「安全委員会」の役職にありながら、リスクを適切に見積もり可能な対策を施すという本来の仕事を放棄し、電力会社にとってコストが悪いと判断されるものは必要ないという、全くおかしな基準で判断をしているのである。今回のように事故による損害が桁外れで有る場合、いくら発生頻度が低い事故であろうが、損害額×発生頻度という計算をした場合、相当あり得ない事故であったとしても考慮する必要が出てくる。原発の建設、運転、運用、規制に関わる人たちが全て、「想定」が苦手な非科学者であったことに今回の事故の不幸な点があるのではないだろうか。「想定外」のことが起こったのではなく、単に「何も考えていなかった」という本書の指摘には全く頷かせるものがある。

本書には防災という話題で「八つ場ダム」プロジェクトについても言及がある。結局、この問題が紛糾している理由は、誰もこのダムの防災効果について正確な評価ができていない点にあることがよく分かる。推進側の役人達も、その辺りの評価ができないので、あれもこれもと目的を追加し、結局そもそものダムの役割が全く見えなくなっている。道路においても費用便益分析ができる科学者が役所にいないために、道路を建設するという結論をもとに係数が捏造される。空港の利用者予測や経済効果などが当たらないのは、役人の中に正確にその数字を予測できる人材がいないからである。いや予測できる人間はいるだろうが、予測方法の妥当性を議論できるほど科学的な態度をもつ人材はおそらく不足しているはずである。こうした場においても、やはり「素人判断」が最終決定に大きな影響を与えるという、「文系社会」の弊害を見ることができるだろう。マスコミにもこうした問題をきちんと資料をもとにして評価できる人材はいない。そのために、政策ではなく、誰と誰が相談したとか、誰がこんなことを言ったとか、政策とは関係のないことばかりを記事にせざるを得ない。世の中の流れは簡単には変化しないだろうが、例えばこの畑村委員会の調査報告や提言を少しでも多くの人が読み、現在の日本のリーダー集団が抱える致命的な問題点に気づいて欲しいところである。

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