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zoom RSS 「デタラメ健康科学―代替療法・製薬産業・メディアのウソ」ベン・ゴールドエイカー

<<   作成日時 : 2011/06/21 22:32   >>

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著者は英国国民保健サービス(NHS)に所属する医師(精神科医)で、2003年からガーディアン紙に”Bad Science”というコラムを寄稿している。同名のサイトについては本書を読むまでその存在を知らなかった。同様のテーマを取り扱っている「代替医療のトリック」と比較すると、よりくだけた表現で説明されており、親しみやすい。その分限密な論証という部分は犠牲にされているが、本書が対象とするのはハードなビリーバーの層ではないということであろう。一方、「代替医療のトリック」がマスメディアや代替医療業界、製薬業界に対する批判を幾分抑えているように見えるのに対して、本書は遠慮なくそれらの対象が攻撃されている。本書は、比較的子供騙しで、害の小さい(騙されるのは一部の金持ちだけだろう)トピックスであるデトックスから始まり、次第にいわゆる「巨悪」が攻撃対象となっていく。読者は小さなごまかしや詐欺の例を楽しく学んでいるつもりが、いつの間にか私たちを取り囲む巨大な欺瞞に気づき、絶望的な気持ちにさせられる。巻末の「最後に一言」では、結局はマスメディアとタッグを組んで大もうけをする詐欺師たちに勝つことはできないのだという敗北宣言すら登場する。実際、その通りだとしかいいようがない。しかしながら、著者も推奨するように、草の根レベルの科学者や元科学者がこつこつと周辺に影響を与えるという営みにも意味はあるだろう。本ブログは影響力の小さいささやかな営みにすぎないが、少しでも関心を持った人がスムースに適切な情報にたどり着く助けになればと思う。

本書は是非国内でもベストセラーになって欲しい内容なのであるが、今のところ反響はあまり大きくない。似非科学に対して積極的な発言を続けている阪大の菊池誠(kikulog)が解説を書く予定であったが、何故か異なる出版社から、かなり遅れて発刊されているらしい(菊池誠による解説)。どういう事情かは不明であるが、マスメディアにとって歓迎されない著作なのではないだろうかという気がする。大手の新聞社の読書欄にも取り上げられていないようで、日本の新聞社にとっては「代替医療のトリック」が精一杯なのだろうか。狭量な話のような気がする。

本書ではブレア夫妻の情けないエピソード(MMR予防接種を自分の子どもに摂取させたかどうかをプライバシーを盾に公開しなかったために、予防接種忌避の誤った世論の後押しをしてしまった事件)も取り上げられるが、「科学」を分かろうとしない傲慢な「文系」的姿勢は、いつか世界を滅ぼすのではないかと心配になってくる。本書でも度々取り上げられる。

メディアにいる文系の人間は科学の難しさを知って、たぶん知的なプライドが傷つけられるのだろう。そこでこう考える。科学なんて適当にでっちあげられたたわ言に違いない。(中略)人によって意見の変わるのが科学。本当に重要なことなどひとつもない。長ったらしい科学用語などさっぱり理解できないので、(ここが肝心なのだが)きっと科学者たちもわかっちゃいないんだ、と。


イギリスの新聞社において、科学を題材にしたスクープやスキャンダルの多くに専門の科学記者が関わっていないという記述にはなるほどと思わされる。つい最近でも読売新聞に「化学肥料遺伝子ゼロ米挑む」というめまいがするような記事が掲載されたが、さすがに社内の科学担当記者にチェックしてもらえばここまで酷い記事はできなかっただろう(ボツになったに違いない)。結局は、エリート新聞記者は、自分でも理解できないことを、科学なんて適当でいいだろうと思って垂れ流しているというのが事実なのだろう。マスメディアは大きな影響をもつので、できるだけ正しい情報が掲載されるべきであるが、全体として「文系脳」であるため、自浄作用を望むことは不可能である。彼らが流す情報の質の低さによって、多くの人が痛い目にあったと感じるまでは潮目は変わらないだろう。

国内の原発事故の顛末は、マスメディアだけではなく、政治家や官僚、そして巨大企業である東京電力といった組織が、軒並みまともな科学的判断ができなかったことを白日の下にさらしている。科学は信仰するものではなく、絶対的な存在でも、真理でもない。人間が手にしたアプローチの中では最も成功を収めている、「ものの考え方」が「科学」である。難しい数学的証明が理解できることや、新種の動物を見分けることができるという知識が科学なのではない。「科学」のアプローチの初歩を身につけることは、エリート記者や東大卒の官僚にとっては難しいことではないはずである。しかしながら、彼らは以前自分がよく理解できなかった「科学」の一分野への復讐のために「科学」そのものを軽視している。この点に目を向けなければ、多くの先進国で進む知的退廃から逃れることはできないだろう。

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「科学的とはどういう意味か」森博嗣
Bad Scienceにおける著者のゴールドエイカーにも見られた傾向であるが、「科学」教育を受けた論者の現代社会に対する提言は、近年ますます直接的で、厳しさを増しているように思う。マスコミ的に言えば「現代社会の矛盾」ということになるのだろうが、現代社会の抱える問題点のかなりの部分は「科学」というアプローチを適切に採用すれば、今よりはよい対処ができるはずである。それにも関わらず、社会をリードするべき人たちの多くは「科学」を軽視、あるいは敵視している。社会に対していくばくかでも関心をもち、世の... ...続きを見る
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2011/07/18 23:17

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