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zoom RSS 「「予防接種は「効く」のか?‐ワクチン嫌いを考える」岩田健太郎

<<   作成日時 : 2011/01/27 00:34   >>

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著者は神戸大学医学部の微生物感染症学講座の教授であり、著書も本書だけではなく多数出版されている。「楽園はこちらがわ」というブログも医療関係者の間では有名なのではないだろうか。一昨年のインフルエンザ騒動でも、いち早くガイドラインや研修医へのアドバイスを提示されており、厚労省の新型インフルエンザガイドラインに対する的確なパブリックコメントも記憶に新しいところである。近著の「「患者様」が医療を壊す」もかなり気になるタイトルで、是非読んでみたい。「バイオテロと医師たち」はアメリカにおける炭疽菌テロへの関心から読んだことがあるが、著者のペンネームでの出版とは知らなかった。著者の活動が真に敬服に値するのは、常に正面からできることをやろうとする真摯な姿勢である。医療の現場というのは、患者や医師を含めた様々な思惑や情報量の落差が交錯し、その間に疾患という一筋縄ではいかない現象が絡むという点で、高度な判断を短い時間に要求される過酷な環境である。どんな仕事にも似たような側面はあるが、より凝縮された形で問題点がクローズアップされるのが医療の現場ではないだろうか。著者は、不完全な情報しかもてない条件で、どのようにして複雑な問題に取り組むのかという問題について、正攻法で対処しようという姿勢を崩さない。

複雑な問題にそのまま取り組むのは難しいので簡単な問題に置き換えたい、あるいは入り組んだところは見ないようにしたいという欲求は極めて強いものであり、多くの人は単純化された議論を好む。複雑な問題について、一つ一つの側面を吟味し、それらを総合して一つの決定を下すというのは、非常に高い知性の要求される作業である。世の中の何%がそうした作業に耐えるかについて著者がどのような意見をお持ちであるかについては尋ねてみたい気もするが、そんな見込みはともかく、声の届く範囲にまずは分かりやすく自身の考えを届けるために、講演を引き受け、著書を執筆される。本書の結びは非常にスマートな姿勢で締められていて、世の中にあまたある「予防接種は悪」という単純な主張への対抗活動にしては賢すぎるのではと心配になるが、結局はこうした地道な活動しか問題解決の道はないという意見をおもちなのかもしれない。

科学に対する相対化の試みや、反知性主義は、いずれも難しいものを簡単にしたい、手の届かないものに対して自分が手を伸ばすのではなく対象を引きずり下ろしたいという、人間の怠慢が生み出した活動なのではないだろうか。予防接種を否定する活動もそうしたものと非常に近いところにあるように思う。本書は予防接種の光と影をしっかり解説した上で、さてどう考えますかと読者に問いかけている。著者は、読者が自分で判断を下すことこそが、予防接種に対する適切な姿勢を身につける第一歩であることを確信している。自分で考えたくない人がいかに多いかを考えると気が遠くなりそうになるが、それでも何もしないで嘆いているわけにはいかない。

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「主体性は教えられるか」岩田健太郎
「バイオテロと医師たち」の最上丈二が本書の著者であることは後に知ったが、若手が新書を書くことのリスクは医学部の場合はより大きいのかもしれない。神戸大学の教授としてポジションが確立されてからは、本名で数多くの著作が出版されている。デビュー作から相当幅広い関心をもった医師であることは伺えたのであるが、次第に著作の内容も自由度が上がっているようである。「予防接種は効くのか?」は非常に興味深く読んだが、本書は語りの洒脱さとは裏腹に読み進めるのがつらいところもあった。「科学者の養老化」とでもいえば良... ...続きを見る
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