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zoom RSS 「行動経済学‐感情に揺れる経済心理」依田高典

<<   作成日時 : 2010/07/26 23:29   >>

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帯には「経済学の“王道”にして最先端」という少々大げさな惹句が書かれており、著者の前書きにも今さらブームに乗ってこうした啓蒙書を書くのは恥ずかしいという気持ちが述べられている。著者は1965年生まれで現在京都大学の教授であることから、おそらく大変期待されている新進の経済学者と思われる。恥ずかしいとは書かれているものの、素人にも分かりやすく解説しようという意気込みが伺える内容である。ベイズの定理と医学検査における医師の判断などは大変面白い課題であり、ムロディナウの「たまたま」でも触れられていたように、ヒトにとっては確率の正しい計算というのは生理的に困難な課題のようである。

分かりやすく書かれているだけに、門外漢にとっては逆に何故そんなことがトピックになるのか理解できない部分が浮き彫りになってしまった。ヒューリスティクスの問題は大変興味深いが、ヒトという生物の歴史を考慮すればそれほど合理性のない傾向とは思えないところもある。暗闇に恐怖を感じるのは、ヒトを捕食する生物がいなくなった今でも十分合理的な性向であり、本書で出てくるヒトの合理的でない判断というのも状況次第ではそれほど大きく愚かな判断とは言えないのではないだろうか。

割引効用理論の項目中で、1年後と2年後の間の1年間と、14年後と15年後の1年間ではヒトにとって取り扱いが異なることが「アノマリー」などというたいそうな表現で紹介されるが、むしろこうした誰もが直感的に分かる欠陥を無視した理論が、一時的にであれ、重宝されていることに疑問を覚えた。科学において仮説とその検証は自然を記述するために続く永遠の取り組みであるが、不完全な理論が実際の現象によって覆されるときにいちいち「アノマリー」などとは言わないだろう。物理学にあこがれる経済学という表現が幾度か出てくるが、生物学のような学問に従事する人間からすれば、モデル生物や細菌、細胞一つですら「物理学にあこがれる」位置にたどり着かないのに、より複雑な対象を取り扱う経済学が物理学を意識しているのはどこか不思議である。

もう一点不思議な点は、定式化した理論の検証にしばしばアンケートが用いられているところである。アンケートで「70%の確率で30万円がもらえるとします」と言われて、リアリティを感じることができる人間はどの程度いるだろうか。しかもそうした選択肢が並べられて比較するという状況で何らかの数式にのるような結果が得られるというのはどうもロマンチックな想定のような気がしてならない。ヒトの選択は毎回毎回が真剣勝負であり、70%で現金が受け取れるという条件は、何度もその条件が与えられ、最後に検証があり、確率が誤っていれば補償されるときのみ意味があって、一回や数回のトライアルではおそらく殆どの被験者にとって全く意味を持たない。おそらく、そうした条件は発話者やシステムへの信頼度なども加味して判断されるはずであり、純粋に思考実験としてそうしたアンケートにのれるヒトは僅かではないだろうか。アンケートは被験者の知的レベルにも大きく左右される。確率と言えば、「愚者の税金」である宝くじは、一般の人が高い知性を持つと想定すれば成立しない。すると、行動経済学とは愚か者の行動を推測する学問なのだろうか。定式化はないだろうが、さえた詐欺師であれば近年の行動経済学のエッセンスは全て身につけているだろう。「行動経済学」の目指すところは何なのか、愚者の行動パターンを定式化することなのだろうか。本当に可能かどうかはさておき、自然科学の研究者であれば、宝くじのような不毛なシステム(一種の寄付金と考えれば特に不健全とは言えないが)や体験談中心の代替医療の宣伝などにだまされない人間を養成することが目指すべき理想と考えるだろう。人間が起こしやすいバイアスを理解し、適切な判断を導けるようにすることは有用であるが、どうもそれらは別の学問に委ねられているような印象もある。時間選好率と危険回避度の解析は、アンケートに依拠しているせいもあるが、どの辺に得られた知見の値打ちがあるのかが分かりにくかった。かなり大きく喫煙のアディクションに関する解析が述べられているが、行動経済学のアプローチにより何が新たに分かったのか、あるいはアディクションに対する経済学的な処方箋とは何かがよく理解できなかった。

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「偶然とは何か‐その積極的意味」竹内啓
著者は東京大学の経済学部出身の大学教授である。偶然について、数学的な確率論の話に始まり、大数の法則と中心極限定理について述べた後に、生物の進化における偶然の役割にふれ、「運・不運」の問題、歴史の中の偶然という流れで議論が進む。第5章以降は著者の社会へのメッセージであり、本書の中で大事な部分ではあるが、必ずしもそれまでの議論を滑らかに受けたものとはなっていない。人間の管理の及ばない領域である偶然についての言及は重要なものであるが、その裏には「神」が見え隠れするところがあり、悪しき宗教的なもの... ...続きを見る
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2010/12/10 21:02

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