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zoom RSS 「代替医療のトリック」サイモン・シン&エツァート・エルンスト

<<   作成日時 : 2010/05/17 23:47   >>

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代替医療は先進国共通の問題のようで、本書は代替医療を積極的に評価するチャールズ皇太子に捧げられている。日本でも鳩山首相が代替医療に好意的であることはよく知られているところである。現代医療への批判が代替医療を支える肥やしの一つであることは論をまたないところであるが、昨今の政治主導という名の下の無策も含め、反知性主義の勢いは留まるところを知らない。知的水準の高い「冷たい」医者のいうことは信用できないが、個人の身体のことを真剣に考えてくれる「暖かい」代替医療関係者は信用できるというのは、相手が自分より賢ければ無駄な医療費を費やされている上、治らないのではと不安になるが、相手がそうでない市井の人間であれば詐欺にあっても良いという意見とそれほど変わらない。落ち着いて考えれば到底納得のいく話ではないのであるが、それだけ現代の医療への漠然とした不信感が醸成されているということであろう。そうした不安は根拠が弱い(殆どない)だけに、否定するのも難しい仕事になってしまっている。そろそろ、保険のきく医療の一貫としてカウンセリングのような活動を取り入れていく必要があるのかも知れない。代替医療のキーワードの一つは個別化であり、一般に代替医療の施術者は患者の訴えを根気よく聞き、患者に対して個別の処方を施す。その処方は、施術者が10人居れば10通りになってしまうようなお粗末な思いつきでしかないが、患者には自分に対して個別の医療行為が行われたという満足感を与える。これはおそらく優れたプラセボ効果を引き出す上で、重要なポイントであろう。著者らは、医師は患者に嘘をつくような形でプラセボ効果を引き出すことは得策ではないと結論づけているが、患者の満足度をあげるためのカウンセリングというのは有力なプラセボ効果惹起の手段となるだろう。

さて、前置きが長くなったが、本書の帯には「ほんとうに効くのか?」という問いかけと、本書で取り上げられる代替医療のリストが掲げられている。しかしながら、本書の値打ちは代替医療の各論にはない。大きな括りとして鍼とホメオパシー、カイロプラクティック、ハーブ療法が上げられているが、真に重要なパートは、過去の殆どの時期において患者を治療すると言うより苦しめてきた医療の歴史と、その世界に科学的根拠に基づく医療(EBM)という考えが根付くまでの過程の解説にある。例えば、重要な武器の一つである二重盲検法の説明や「コクラン共同計画」の説明は「鍼」の章に含まれている。また、自分やその周辺の状況に重きをおいて判断してしまう人間の特性や、統計的な考察の重要性なども本書でふれられる。医療関係の大学では須く、本書を教科書に採用することにより、学生たちと議論し理解を深めるべきであろう。ダークサイドに落ちた医療関係者はそれこそ枚挙にいとまがないが、そうした逸脱例を減らすだけのパワーとわかりやすさが本誌にはある。

もう一点大事なことは、代替医療を一つでも容認することは、それが採用される際に通常の医療行為が妨げられ、場合によってはそれが患者の命を縮めるという危険性を高めることである。代替医療であっても、通常の医療行為と同様に検証を受ける必要がある。代替医療の中にもうまくいけば将来の医療行為となるものもあるかもしれない。いくら緊急性があるという個人の事情があろうとも、検証も受けていない代替医療に命を預けるのは、しばしば大変な損害となるはずである。

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「フェルマーの最終定理」サイモン・シン
サイモン・シンのデビュー作にあたる本書は、大変評価の高いポピュラーサイエンスであり、各所で話題になったことを記憶している。「フェルマーの最終定理」の魅力的なところは、まず問いそのものは中学生程度でも理解できる内容である(アンドリュー・ワイルズは10歳の頃にこの定理に出会っているが、同時期のかわいらしい少年時代のワイルズの写真も本書に掲載されている)にも関わらず、その証明には現代数学の武器が惜しみなく投入された点にあるだろう。実際にはその証明を吟味できる数学者は世界でも数少ないわけであるから... ...続きを見る
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「デタラメ健康科学―代替療法・製薬産業・メディアのウソ」ベン・ゴールドエイカー
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