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zoom RSS 「打ちのめされるようなすごい本」米原万里

<<   作成日時 : 2010/01/14 23:51   >>

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文庫版には井上ひさしと丸谷才一による的確な解説があるので、文章家としての著者についてはここを読むだけでもかなりのことを知ることができる(著者から激賞されている丸谷才一のものは読んでいてむずかゆくなるような箇所があるが)。ロシア語通訳の第一人者であると同時に、素晴らしい書評家、エッセイストとしても知られる著者の書評のみを抜粋した一冊である。週刊文春の「私の読書日記」は手にすることがあれば必ず読んでいたので、そういえばこういう書評もあったなあというものも多い。どういう位置づけにあるかにもよるが、実名の書評というのは日本ではなかなか微妙なもので、評する本の著者によってはあたかも自らの人格を否定されたように受け取ることもあれば、自らの子を貶されたような感情的な反応を示す人もいる。たくさんの書評をすれば当然著者が想定しないような誤読を評者がすることもあり、それは著書の記述が悪いのか、あるいは評者の教養が足りないのかといった問題に発展することもある。また、評者とその本がいつ出会うかも重要な要素であり、評者の問題意識のもと選ばれた本は、適切な評価を受ける可能性も高いが、一方で評者の期待にそぐわない場合は酷評されることもある。著者の書評はいい意味で乾いていて、著者にこういうことを考えさせる本なのだなということが、余計な感情を交えずに理解することができる。しばしば自身の意見や感想をあたかも第三者的な言辞で述べる評者がいるが、著者の書評は文章が明晰であるために、あくまで著者の評価であることが自然に伝わってくる。そのため、著者の背景についてよく知っていると、一連の書評をよりうまく活用できるだろう。

素晴らしい読書ガイドである本書で考えさせられた箇所は、一箇所、「癌治療本を我が身を以て検証」の項目である。この部分は書評ではあるが闘病記でもあり、個人的には、著者のような素晴らしい知性に貴重な治療のための時間を浪費させた数々の本とその著者に憎悪すら感じる。如何に優れた知性であっても、専門外のことに関してはこうも無力なのかと、全く以て残念としか言えない。一人でもまともな科学者が近くにいてアドバイスすることができていればと心から思う。著者は持ち前の好奇心と知性から胡散臭いものに対する警戒はできているのではあるが、いずれも状況証拠(体験談が多い、断定的な表現など)からの推測のため、インチキから完全に身を遠ざけることができず、クリニックに通ってしまったりしている。人間の思考の傾向である、「体験談を重視し、治癒例に希望を見いだし、確率を理解した上での理性的な判断ができない」ことを見事に表している経緯を読むのは大変辛い。癌ということで「免疫革命」の安保徹と福田稔の話題が出て(ここに不幸にも行き当たってしまう患者は相当数いるものと思われる)、著者は自律神経免疫療法のクリニックに行ってしまう。科学という思考のアプローチは全人類的に必要な知恵であり、情報過多の現在において科学リテラシーを身につけなければ命に関わるということをひしひしと感じさせる。クリニックの医者とのやりとりは本当にこのような医者がいるのかと驚かされるが、イデオロギーこそは人類の不治の病であるということが想起される。「転移は癌が治るサイン」とか、安保セオリーの弊害について、患者の無知は自己責任と言うことで放置して良いものなのだろうか。日本免疫学会や新潟大学には社会的な責任はないのだろうか。治療法の方針におけるグレーゾーンという範疇をはるかに超えた法外な行為であり、ネットでのプレゼンスの大きさには恐怖を感じる。養老孟司が喫煙を擁護するくらいは許せないこともないが、安保免疫理論はそれによって命を落としている人が少なからずいるのではないかと、暗澹たる気持ちにさせられる。

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米原万里の書評集。前半が週刊誌の連載コラム、後半は新聞や雑誌への寄稿文。 ロシア語の同時通訳で活躍した著者だけに、旧ソ連や東欧に関するノンフィクションを数多く紹介、知ら ... ...続きを見る
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