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zoom RSS 科学教育の重要性

<<   作成日時 : 2009/12/31 01:41   >>

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今回の事業仕分けでは、財務省の主計局が非常に重要な役割を担ったことが次第に明らかとなりましたが、以前少しふれたように、主計官を務める官僚がどの程度当該分野についての見識を持っているかという問題は見過ごすことができない問題点ではないかと考えるようになりました。あわせて、近年大きな問題となっている様々な制度の疲弊と改革の失敗の背景には、我が国における科学教育の軽視があるのではないかと考えます。そこで、これをきっかけに少し考えたことを記録しておきます。

従来の日本のように、全体の経済規模が拡大する中での予算配分というのは比較的容易ですが、現状維持あるいは縮小という流れの中で予算配分を行う際には、状況に応じた予算の振り替えが必要であり、誰もが満足する解はあり得ません。そのため、大きな国家運営の理念とそれに付随する方向性を明確にすることにより、我慢する集団に対する大義名分を保証しなければいけません。民主主義というシステムの中では有権者という集合の位置づけは高いものになっていますが、如何せん大きな集団であるため、現行の国の制度の中ではその力を制約するような仕組みが随所に仕掛けられています。一方で、小泉政権の誕生や今回の政権交代のように有権者の示す意思表示が大きな役割を担うケースもあります。国の運営をうまく進める上で、有権者の知的レベルの向上というのは、国が誤った方向へと進むことを防ぐという意味で相当大きな要素であると考えられますが、過去においては被支配者層の知的レベルの向上が政権の転覆や革命運動につながるという危険性を考慮して、大衆教育にあまり力をかけない、あるいは教育を悪とみなすこともありました。現在では一般大衆は愚かな方が良いのだという声をあからさまに聞くことはありませんが、一つの考え方としては相当根強いものがあるのではないかと思います。あわせて日本では偉い人が構想した計画に従う方が楽であると多くの人が考えていることも事実でしょう。しかしながら、現在の日本の状況では、こうした一般大衆は知的レベルが低くても良いというような議論をする余裕はあまりないのではないでしょうか。

新聞やテレビの報道を見ると、多くの自然科学者には違和感を覚えずにはいられないことがたくさんあります。あまりに違和感が大きいので、そうした情報にはあまり関心がないという研究者も多いと思います。政治の議論や、政策の決定過程についても同様のケースは見受けられます。こうした事例で決定的なことは、情報収集の方法や、その結果の解釈、そしてそれに対する対処が、全くもって科学的な手続きに沿わない、誤ったものである点にあります。意図的なミスリーディングもありますし、一方で単純な理解不足からくる間違いも多々あります。何を明らかにするためにどのような調査をするのかということが最初から疎かなために、様々な人がその立場に応じて都合の良い結果を恣意的に採用して議論すると言った馬鹿馬鹿しい出来事すらしばしば見受けられます。

科学の価値については様々な議論がありますが、人間の思考様式としてこれほど生産的な手段は他にはありません。未知の課題に対して、情報を収集し、これを解析し、問題点を明瞭にして、ある仮説のもとに調査を行う。その結果得られた情報を評価し、仮説を修正し、場合によっては調査方法を洗練し、ある一つの結論を得る。この結論は常に暫定解であり、こうした営みを繰り返すことにより自然現象の近似を得る。こうした科学の営為をどの程度適切に行うことができるかということが科学者の資質であり、これは教育により身につけることができます。科学の立てる仮説というのは、常に検証可能であり、人間がどのように解釈しようが観察事実は変わりません。文化は世界中で多様ですが、科学という手法は国際的にみても一つしかありません。数学は、時期的に遅い早いはありますが、世界中で同じ考え方が見いだされています。

一方で、人文科学というジャンルがありますが、これは自然現象が対象ではなく人間の営為を対象としていますから、厳密には科学とは言えないものです。自然現象に対して人間がどのように感じるか、あるいはどう解釈するかが哲学や宗教の関与する領域であり、それは、人間という枠組みで制約される普遍性のある部分と、時代時代の精神性により変化していく部分から構成されます。「ある感染症を標的とした予防接種では80%以上の接種者がないと大規模感染は防げないので、強制的な措置を取るべき」という措置と、「それでも私の子に予防接種による副作用が出たらどうするのですか」という一般市民の訴えに対して、大規模感染により死亡する確率と副作用が発生する確率とを比較して議論することが科学の機能であり、その予測精度を高めることが科学者に要請されることです。一方で、副作用が発生した場合にどのような補償の仕組みを用意し、どのような精神的なケアを施すことが社会的に妥当かといった問題は、科学だけでは解決できない問題になります。

少し脱線しましたが、情報収集を適切に行う人材や、あるいはそのデータを科学的に再構成し、適切な対策を講じるということができる人材が現代において圧倒的に不足しているというのが私の感じるところです。社会をリードしている層に科学的思考が伴わないことによる国家的な損失は、かなりの規模ではないかと思われます。

財務省を辞めた高橋洋一さんの著書に、財務省には「変人枠」があり、時々数学を専門とする高橋さんのような人材が入省するという記述があります。非常に奇妙に感じるのは、国家予算という大規模かつ複雑な仕組みを運営しているのが、法学部を始めとする東京大学の学士であるという点です。もちろん、入省後も研鑽にはつとめられるわけですが、大学とは異なる環境ですから個人により成果は異なるでしょうし、科学教育の適正なフォーマットで全員が教育を受ける機会は入省後は殆どないものと思われます。おそらく、こうした官僚の養成にあたる人にも科学者は少ないのではないでしょうか。予算だから全員が理数系という必要はないのですが、現在の制度はあまりに硬直しているように思われてなりません。江戸時代の世襲制度の行政官システムや、形骸化した後期の中国の科挙制度を想起させます。エリート選抜という戦略は選抜方法さえ適切であれば効果はあると思うのですが、あらゆる学問分野で専門性が高まっている現在において、東京大学卒業で文系という選抜基準はあまりに雑であると思います。自然界では多様性が重要であるという例は事欠きませんが、官僚組織は多様性に乏しい脆弱な仕組みとなっています。

今後も主計局という組織は重要な位置づけであることは間違いないのですから(政治主導でそうした機能を担う組織ができる可能性もないわけではありませんが)、そこで活躍する人材の質をどう向上させるかが重要と思われます。その中で、科学という手続きを理解するための教育は必須です。これほど成功した優れた思考のツールをもたずに国家の運営に関わるというのは、どう考えても得策とは言えません。また、当然のことですが、社会をリードする層に科学的教育を普及するためには、あわせて全体の底上げを計ることが重要だと思います。さて、どのように科学教育の底上げを計るかという方策は簡単ではありませんが、稿を改めて考えてみたいテーマです。現状の科学者の散発的なボランティア活動には殆ど効力はないというのが私の持つ印象です。

大学と企業とを経済的な効率という観点から比較するなどという稚拙な議論が主計官から飛び出すところを見ると、人文科学分野の教育も深刻な状況ではないかという別の心配もありますが、これについて大学で獲得する教養とは何かという議論になるので私の手に負えるものではなさそうです。ただ、国際的に見て、高級官僚がその種の発言を公的にして恥じるところがないというのは日本だけではないかと思います。財務省官僚の何人かの人たちには、合理的でない反発というか、敵意のようなものを自然科学者に対して抱いているのではないかと思われる方がいらっしゃるのですが、これは頭脳明晰な官僚の中にはその優秀さ故に科学という手法を自らが身につけていないことに対する劣等感があるのではないかという穿った見方をしてしまいます。そうはいうものの、事業仕分けに対するノーベル賞受賞者一同の的外れな反論には驚かされました。どうせ中身は誰も吟味していないのだから話題になった方が勝ちという判断を科学者側がしているのであれば相当な決断ですが、仕分け人の誰も科学の営為そのものの価値を否定していない仕分け議論に対して、科学の価値を認めないのはけしからん、マスコミももっと科学について理解を深めるべきだとやったわけですから、相当乱暴な話です。皮相な議論で物事が決まってしまうことへの抗議であるにも関わらず、科学者側が同様に皮相な反論をしてしまったことについてはいずれボディーブロウのように科学者へのダメージとなるのではないかと些か懸念しています。

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