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zoom RSS 「新薬ひとつに1000億円!?」メリル・グーズナー

<<   作成日時 : 2009/11/18 00:08   >>

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本書はアメリカの医療ジャーナリストによる著作であり、原著は2004年に公刊されている。オバマ大統領の医療制度改革が着手されようとしている現在ではいささか話が古いのではという危惧があったが、医薬品研究開発の状況としては当時と現在でそれほど大きな環境の変化はないだろう。むしろ、抗体医薬品の成熟などを通じて医薬品開発の手詰まりな状況は悪化しているかもしれない。本書のモチベーションは、製薬企業が主張する「新薬ひとつあたりの研究開発費は8億ドル」という見積は正しいのかという疑問にある。様々な調査の末、実際の研究開発費は算出されているのであるが、本書の明らかにする内容はそうした金額の多寡ではない。製薬企業による医薬品開発の抱える構造的な問題点を指摘している点が注目するべきところであろう。

製薬企業が「採算」という言葉を振りかざして研究開発にお金をかけないことは、国内の製薬企業においても見られる一般的な傾向である。一方で、本書でも取り上げられるように、希少疾病に対する医薬品のように市場規模が小さかろうと、保険制度の上で十分収益が上がるとなれば、途端に競争が始まる。企業は収益を上げることが重要であるから、こうした姿勢は予想されるものといえる。本書ではこうした点が攻撃されているわけではなく、平たく言えば、「政府の研究費で開発されたに等しい医薬品を高く売りすぎなのではないですか?投資した資金は販売後2,3年以内に回収しているのではないですか?」という問いかけが何度も行われている。基礎研究が応用にどのようにつながるのか、またどこからが応用研究と言えるのかといった問題は非常に難しく、評価者によって意見の分かれるところである。そこで著者は個々の医薬品開発の裏側を詳しく調べることにより、どう見ても製薬企業はそれほど新薬開発に貢献していないといえる事例を取り上げている。しばしば医薬品開発は関わる研究者の熱意により成功するものであり、その過程では製薬企業はむしろ開発のラスト数マイルを邪魔する存在でしかない。また、既存の医薬品の特許期間を延長するための開発研究や、競合する医薬品との僅かな相違を医師に向けて示すための臨床試験といったものに、いかにたくさんのお金がかけられているかという調査結果は大変興味深いものといえる。特許切れの有効な化合物をひらい上げるシステムが機能していないことは、国民全体の利益を考えれば全く持って大きな損害といえる。最終章に登場する非営利の医薬品開発団体という存在は、医薬品開発を国家レベルで再考する良いヒントといえるであろう。アメリカでも日本でも、結局は、基礎研究の果実を製薬企業が不自然に多く収穫しているという事実に目をつぶっている。基礎研究だけではなく、医薬品の開発に至るまで政府が関わるというアイデア(国営の製薬)すら、決しておかしなものではないことを本書は示している。最小のコストで国民の健康を維持するにはどうしたらよいのかと考えた場合、本当に私企業の活動に委任していて良いのか、政府が介入する方が国民の負担は軽くなるのではないかという課題は真剣に考慮すべき内容といえるだろう。

基礎研究と応用、私企業と政府との関わり、国民への税金の還元といったことを考える上で、本書は大変示唆に富むレポートといえる。日本では財務省主導のもと仕分け人が公共事業査定を行っているが、何故この15%が俎上に上げられたのか、どのような考え方で査定に望むのかはどこにも明示されないし、誰も明言しない。ドラスティックに構造を改革するには、本書のような綿密な調査と、それをふまえた議論が必須である。




新薬ひとつに1000億円!? アメリカ医薬品研究開発の裏側 (朝日選書)
朝日新聞出版
メリル・グーズナー

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