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zoom RSS 「完本‐1976年のアントニオ猪木」柳澤健

<<   作成日時 : 2009/05/25 00:03   >>

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著者は橋本治の弟子であるようだが、日本におけるプロレスの特異な発展の姿を、アントニオ猪木、特にその1976年の姿に焦点を置くことによって、魅力的に描いている。アマゾンの書評などでは、コアなプロレスマニアと思われる評者にかなり低い評価を与えられているようであるが、普段からプロレス評論を読まない私にとってはかなり興味深い内容だった。著者はこの魅力的な素材に溺れることなく、非常に読みやすい文章で、ある種淡々とした筆致で描いているところが優れている。

「プロレススーパースター列伝」をリアルタイムで読み、新日本プロレスが最も輝いていた時代にテレビを見ていた世代にとっては、アントニオ猪木は一種別格の存在である。本書にも書かれているように、プロレスの天才である猪木は相手の持ち味を十分に引き出して、かつ最終的には華麗なフィナーレに持っていくという点で並外れたプロレスラーである。私がテレビでプロレスを見ていた頃には、既にジャイアント馬場は子供たちにとって滑稽な存在であり、全日本こそは台本のあるショーであることを、馬場という存在が身をもって示していた。一方で、猪木こそは真に格闘技をしているのだという確信をみなが持っていた時代であった。今から考えれば、多くの大人たちはプロレスに対して優しい姿勢をよくもこのように長い間守っていてくれたものと感心する。スーパーストロングマシーンの登場の時期などは、随分アメリカ的な仕掛けが見え見えで非常にきわどい状況にはなっていたが、その後の佐山、前田、船木、高田といったプロレスラーによる新団体設立の嵐の中で、総合格闘技という流行が生まれ、多くのファンは幸せな思い込みを持続することができたはずである。

何をしでかすか分からないという危険なムードを醸し出すこと、そして時には本当に誰もが理解できない行動を取ることで、アントニオ猪木は、自分こそが本物であるというイメージをファンにすり込むことに成功している。虚実入り乱れた世界を作り上げる異様なエネルギーこそが、猪木の魅力といえるだろう。本書ではその火を点けたのが、完璧な成功者であったジャイアント馬場への嫉妬ということになっているが、率直にいって馬場にスターのオーラを一度も感じたことがない私にとっては、少ししっくりこない解釈ではあった。ただ、馬場により猪木が窮地に陥ったという状況説明は確かにその通りであり、猪木のエネルギーを引き出す上で馬場の役割はおそらく大きかったのであろう。

本書は、文庫版で「完本」と謳うにあたって、アントニオ猪木へのインタビューに成功している。これは巻末に収録されているのであるが、出版後の状況や世間の反応を見極めた上で、猪木がインタビューに初めて応じている点が興味深い。著者の出方を見極め、最終的にはインタビューを利用して自分の技をかけに来るという、正にアントニオ猪木らしいスタイルである。一見して率直に様々な質問に答えているようでいて、一方で猪木らしい異次元空間を作り上げることに成功している。これだけ取材を重ね、丁寧に記述した本書の巻末にこのインタビューを置かせることによって、猪木はやはり自らのイメージをコントロールすることに成功しているのではないだろうか。

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