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zoom RSS 「渋滞学」西成活裕

<<   作成日時 : 2009/04/12 18:05   >>

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著者は「渋滞学」を提唱し、学際的な活動を続けながら、本書の執筆に至っている。本書は一時期ベストセラーに顔を出しており、2007年末(刊行から1 年も経っていない)で10刷に達している。著者は1967年生まれの第一線の研究者であり、こうした優れた研究者がリタイアする前にこうした一般向けの科学書を著すことの価値は大きい。

セルオートマンを武器に様々な領域の「渋滞」に切り込んでいく様子を極めて分かりやすい表現で説明している。数式はもちろん出てこないし、こうした著作にありがちな飛躍もない。著者自身もあとがきに書いているが、同業者の視線を感じながら、思い切って分かりやすく書くという作業は大変勇気の必要な行為である。見づらいが気になる場所にごく少数の研究者のために置かれた難解な注記が並ぶような本にならなかったことは、本書の価値を高める一つの理由だろう。本書は講談社科学出版賞を受賞している。

本書では、巧みに配置された実例の紹介や、たとえ話、適度な脱線が、読書体験を豊かなものに変えている。著者は専門分野以外の領域に対しても十分な目配りをしており、その好奇心や観察力に関してはぬきんでたものが感じられる。私が専門家として判断できる箇所として、タンパク質合成における「渋滞」や細胞内の物質輸送の話題があるが、実に的確な記述で、著者にとっては非専門の領域について正しい説明が行われている。専門家であっても、同等のこなれた説明ができる人は多くはないだろう。この箇所一つをとっても、著者が科学者として信頼に足る優れた研究者であることが理解できた。一方で、帯には茂木健一郎の絶賛があるが、一般の人が手に取る機会が増える意味では良いことであるが、真面目な研究者や科学に関心をもつ人たちが本書を遠ざける理由にもなりそうである。本書は単なる一般のベストセラーというばかりではなく、科学者にとっていろいろな意味で非常にためになる著作であることを、微力ではあるがここで主張したい。本書を読めば本物の科学者と出会うことができるが、福岡本では無理だろう。

既に手遅れの感もあるが、どうして大学時代に数学をしっかりやらなかったのだろうという後悔を個人的に強く感じさせられた。もちろん、必要とあらば専門家と共同研究をすれば良いのであるが、自然を理解しようという立場にあって、数学についての理解が浅いことは致命傷ではないだろうか。「渋滞学」が生まれる上で重要な契機はBioplymer誌に掲載された数学的な解析であるそうであるが、もし自分がそうした重要な論文を目にする機会があっても、その価値に気づくことはないだろう。そういう意味で研究者としては、反省を強いられる一冊でもあった。

著者は最後に科学研究者の人材育成について、理学部的なものと工学部的なものを一人の人間の中でセンスとしてもつ(著者のような)人材を育成について、熱い主張を行っているが、全くもって同感である。両者が同時に互いの言葉を理解しなければ真の共同研究はできない。そういう意味で、私には著者の言葉がおそらく理解できない(逆はそうでもないだろう)という点がとても残念に感じられた。

ごく最近、「無駄学」という刺激的なタイトルの著作が上梓されている。こちらについても近日中に手を付けたい。

著者のサイトはこちらである。

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「無駄学」西成活裕
「渋滞学」の刊行により広い方面で反響を得た著者が、自らのテーマを発展的に展開したものが、この「無駄学」という位置づけになるようである。著者がおよそ10年間をかけてアカデミアにおいて研究を深めた中から生み出された「渋滞学」と、そこから約2年後に刊行された本書とを比較することは適切ではないが、同じ出版社から似たような体裁で出されているものの、二つの著作のポジション、および著者の姿勢は大きく異なるという印象をもった。 ...続きを見る
読書の記録
2009/04/19 00:33
「とんでもなく役に立つ数学」西成活裕
「渋滞学」という一般向けの科学啓蒙書としては極めて水準の高い著作で有名になった著者が、都立三田高校の学生12名を対象に、数学による問題解決の実例、手法、メリットを縦横無尽に講義した記録が本書である。高校生向けということで、具体的な例をたくさんあげることにより、わかりやすく数学的なアプローチの御利益が説明される。「渋滞学」を読めばOKという気もするが、より身近な例をあげて、解説の敷居を下げているので、こちらから読んでみるという選択も良いかもしれない。 ...続きを見る
読書の記録
2012/03/19 00:33

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