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zoom RSS 「サブリミナル・インパクト‐情動と潜在認知の現代」下條信輔

<<   作成日時 : 2009/01/30 00:12   >>

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最先端の研究を行う潜在認知の専門家による本書は、興味深い知見と洞察に満ちた内容で非常に参考になった。潜在認知が広告や政治に利用される危険性を指摘しながらも徒に不安を煽ったり非難をすることはなく、科学者らしい忍耐で事例を冷徹に解析し、将来への備えとして何が必要であるかを述べている。終章では著者の自画自賛も書かれているが、広告や政治の標的として現代社会で危険にさらされている潜在認識という領域こそが独創性の源であり、人間の可能性を広げる場として機能していることが紹介され、明るい展望を提示して締めくくられる。凡百の「脳科学者」の中途半端なエッセイを読むくらいであれば、この一冊を読むにしくはない。著者はおそらく気にもとめないだろうが、裏表紙の折り返しの「好評既刊」には茂木健一郎、養老孟司、梅田望夫といった著者の近刊が並んでいる。Rigidなサイエンスの裏付けのある本書と、それらのほぼ著者の主観一本で書かれているようなエッセイが、同列で並んでしまう辺りがいい意味でも悪い意味でも新書という形式らしいところである。少しでもたくさんの人が本書を手にとって、「「脳科学者」のエッセイ」との違いを感じ取って欲しいと思う。

なまじ実験科学を知っているせいか、最初の導入部分の説明がしっくりと理解できず、あやうく挫折しそうになったが、第一章以降は全くそのようなことはなく著者のガイダンスに従い、非常に興味深く読むことができた。順に印象深い箇所を紹介する。

現代人の受ける刺激の過剰に関する議論は、いくつかの類型に分けて紹介されるが、いずれもしっくり来る内容である。刺激に対する反応の早さには、従来想定されていたような「上限」は存在せず、破綻するまで増大する可能性があるという指摘は、なるほどそうかもしれないと思わせる。また、現実よりも「リアル」と感じる感覚である、著者の言う「ハイパーリアリズム」という問題は、非常に現代的であり、私たちが「リアル」と感じるものこそが現実というねじれの問題は今後ますますクローズアップされてきそうである。

第三章の「消費者は自由か」という、選択の自由とストレスの増大という問題、あるいは選択肢が限局されることによる「楽さ」が自由という感覚を引き出すしくみについての議論が行われている。現代の消費動向を理解する上でも大変参考になる考え方である。CanCam読者による「バカ売れ」服の消費やコンビニの売れ線の問題などがすぐに思い当たる。アマゾンの「この本を買った人はこんな本も買っています」という推薦機能などもこの問題と関連している。アマゾンでは無限に近い商品が準備されているが、実際には個人を標的とした「お勧め」を軸とした制限がかかっており、その枠内で消費者は「自由に」商品を選ぶ。この構造は、「楽さ」、「便利さ」も含めて非常に現代的な構図と言えるだろう。

第四章では政治の問題が取り上げられる。どうしてアメリカ政府は何度も見え透いた嘘をつくのか。イラク戦争やアフガニスタン問題、戦争捕虜の問題、パレスチナ問題など、いずれも時間が経てばばれてしまうようなお粗末なストーリーを持ち出してくる。こうした疑問に関しても、「アラブ人はテロ行為を行うから危険だ」といった類の情報を数ヶ月間信じさせることこそが重要という指摘が行われている。その後、たとえ嘘と分かっても潜在認知はなかなか修正されることはないから、当初目論まれた効果は十分発揮されているという解説が与えられる。

最終章では創造性の問題が取り上げられる。クリエイティブな人とは、「全体的な状況を把握し、顕在知(顕在認知過程)と暗黙知(潜在認知過程)との間を自由に往還しつつ、考え続けられる人」と定義される。特に、一旦得た知識を潜在化させてうまく活用するために、わざと忘れようとすることも、ある意味有用であるという指摘は興味深い。環境との相互作用を自由に常時行える領域である潜在認識の領域をどのように膨らませて、遊ばせることができるかが重要である。そして、遊ばせた暗黙知を時宜を得たタイミングでキャッチすることが肝要らしい。このあたりは、私の紹介がうまくないので、茂木健一郎と何が違うのと言われそうであるが、一読してその厚みの違いを理解していただきたいところである。言説の強さは、背景の知識、経験に比例するものであり、脆弱な背景から生じる言説はやはり限界がある。

刺激のインフレ現象とも言える現代社会が、著者の予言通り、紆余曲折を経ながらも着実に一定の方向で進んでいった場合に起こることが何かについては、非常に恐ろしく感じる。いわゆる破綻領域では何が起こるか、本書では特に記述されていないが、大きな問題ではないかと少々心配である。

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