読書の記録

アクセスカウンタ

zoom RSS 「つなげる力」藤原和博

<<   作成日時 : 2008/11/04 23:04   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

著者は、杉並区の和田中学校長として数々の新しい教育改革を成功させ一躍時の人となった。最近では橋下知事からの任命を受け、大阪府の公教育にもその力を発揮しようとしているところである。著者には以前から関心を持っていたのであるが、なにぶんたくさん著書があるので、どこから手を付ければ良いのかと躊躇していた。本書は「つなげる力」というタイトルで帯にも「問題解決のノウハウを全公開」とある。ノウハウであるからには、単なる教育論ではないだろうし、一方で何をやったかだけの話でもないだろうと想像して購入した。結果的には大正解であり、当初著者に期待していたものの殆どが本書によって満たされたように思う。

著者は現代日本を成熟社会と認識しており、そこでは従来必要とされていた情報処理能力ではなく、情報編集能力が問われるとしている。これには全く同感である。これだけ情報量が増え、またそれらを検索しデータベース化する技術が進展すると、必要な力とは、それらをTPOに応じて使える形に変えることや、あるいは新たな組み合わせで新たな発想を得るといった「編集力」が最も重要な要素となってくる。「よのなか」科の発想やPISA型学力の紹介ではこうした点をどう強化するかという観点に重きが置かれている。ゆとり教育の際の議論と大きく異なる点は、具体性である。ゆとり教育では、詰め込みは良くない、受験戦争を何とかしろという声が大きすぎて、では新たな教育では何を重視して、どのような手段でそれを達成するかという議論が欠落していたように思われる。寺脇研などは後出しじゃんけんで今頃補足をしていたりもするが、これほど重要な問題であれば、あれほど露出の多かった寺脇研が何故一般に向けて主張していなかったかは不思議なことである。

和田中学の取り組みの中で重要なポイントは、地域社会と「つなげる」ことに成功した点である。教育に必要なリソースを見積もり、教員ではとても無理と判断した時点で、それを地域社会や、学生インターン、そして話題になった学習塾へと求めていく手際の良さは特筆すべきである。一箇所だけ、著者が手はずを整えていく経緯のタイムテーブルが掲載されているのであるが、速やかで無駄がない。後半にも強調されているが、リズムにのって進めていくことの重要性が良く表れている。機嫌良く、テンポ良く、フットワークを軽く進めることにより、困難な課題がいとも易々と解決されていくような錯覚すら感じさせられる。本書にはたくさん事例が紹介されており、蘊蓄もあれば、脱線もある。しかしながらテーマを読者が見失うことはない。このテンポの良さは著者が大きな仕事をこなす上での大きなアドバンテージだと思う。

著者の指摘する「つなげる力」はこれから大きなキーワードになるだろう。「つなげる」ことができない人間の価値は従来よりもはるかに低く見積もられることだろう。著者の目指すところは、単なる中等教育の改善にとどまらず、地域社会の再生や高齢化社会の処方箋ともなるコミュニティの再編である。これから大阪がたたき台となって改革が進められる過程に注目したい。

一方、地域社会との兼ね合いという点では、教育委員会と同じかあるいはそれ以上の不愉快な問題がたくさんあったことが想像される。著者はあまりそうした問題には紙幅を割いていないが(さぞかし鬱陶しい話題になりそうなので、割愛されているのかもしれない)、ネガティブな反動に対する対処についても是非一度意見を述べて欲しいところである。著者は、「Yes, but」型人間を好み、「No, because」型人間はできるだけ避けると述べているが、結局はネガティブ指向の人間とは付き合わないのが最良ということだろうか。あまりおおっぴらには書きにくいことではあるが。最終章では著者のアクティブな姿勢がこれでもかと描かれているが、やはり誰でもできることではなく、著者の平熱は一般よりは高いのではないだろうか。ネガティブであったり、生きることへの熱意の薄い人間をどのようにリードしていくか、著者の経験談を聞いてみたい。

ユヌス自伝に続いて是非みなさんに読んでいただきたい一冊である。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
「つなげる力」藤原和博 読書の記録/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる