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zoom RSS 「ニュルンベルク・インタビュー」レオン・ゴールデンソーン

<<   作成日時 : 2008/10/30 01:05   >>

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本書は、ナチスの戦犯が裁かれたニュルンベルク裁判中の収容所においてアメリカの精神科医が行ったインタビューで記されたメモをもとに構成されている。序文にはこのインタビューのもつ背景が簡潔にまとめられており、ニュルンベルク裁判について予備知識をもたない読者にとっては大きな助けとなるものである。インタビュワーは戦犯の異常心理、特にサディズムの問題を意識しながら、あくまで精神科医としてのインタビューに徹しようと努めているが、ナチス戦犯の方は裁判や自らの取り扱いに影響する可能性も考慮して回答している点は注意が必要な点と言える。ニュルンベルク裁判は、人道に対する罪(主としてユダヤ人に対するジェノサイド)ばかりが争点ではなく、平和に対する罪や共同謀議についても争われており、戦争裁判につきものの「勝者による断罪」という問題を内包している。例えば、ソ連がドイツと共謀してポーランドを分割したことだけが裁判の対象からは外されている。多くのナチス戦犯が主張するように、勝者の罪は問われることはないという矛盾は裁判の中に露骨に顔をのぞかせている。

出版社の創業120周年企画と言うことで、力の入った帯がついているのであるが、むしろその内容は帯の文句とそぐわないものといえる。「初めて暴かれたナチス戦犯の「衝撃の声」!」とか、「「精神的に正常だった」彼らの驚くべき証言の数々」といったあおりが書かれているのであるが、証言の大半は「衝撃の声」というにはほど遠い。そして「精神的に正常だった」方がむしろ圧倒的に多数派であり、戦後の冷戦を予想してソ連との交渉方法を論じたり(多くのナチス戦犯がロシア人は理解することが不能なアジア人で、欧米の価値観では把握できない拡張主義の民族と捉えている点は興味深かった)、シャハトのようにかなり論理的で的確な議論を述べているものもいる。ヒトラー、ヒムラー、ゲッベルスといったナチスの最高指導部に属する人物が不在の状態で開かれた裁判であるため、多くの戦犯の主張が組織が中央集権的で全体像は首脳部のみが知り自分は歯車に過ぎないという方向に偏りがちな点は残念ではあるが、それでもインタビューから漏れてくる個々人の意見は興味深い。

一方で、アウシュビッツの収容所長であるルドルフ・ヘースのインタビュー内容は、他の戦犯と比べれば読む者にかなり異質な印象を与える。ヘースは組織の中で命令を受け、淡々と大量殺人を効率的に実行していくのであるが、「別の地位についてアウシュビッツを離れればいいのに」と妻に家庭では言われたり、「ほかにもたくさん仕事があって忙しかった」など、日常生活はあくまで一人の官吏の告白のようであり、ジェノサイドに携わった人間という印象が見あたらない。戦後、ジェノサイドの事実を説明され、それを聞いて、ヒムラーの指令が間違っていた、自分はひどいことに手を貸してしまったと術懐するのであるが、それもどことなく平板な印象しか与えない。このあたりの印象は他の戦犯とは異なり突出している。本書に登場する戦犯の多くはジェノサイドの計画を知らなかった、あるいは気づかなかったと述べているが、おそらくそれは虚偽の証言であろう。しかし、これらの上級幹部が実際にジェノサイドの場にいたこともおそらく稀であり、無関心を装うことも可能であったと思われる。そういう意味でもヘースの証言内容は他とは一線を画す衝撃的なものと言えるだろう。

立派な人物という印象を与えるインタビューもあれば、一方で醜い責任逃れや矛盾した言い訳に満ちたインタビューもある。そんな中では、シェレンベルクのインタビューも興味深い。インタビューを行ったゴールデンソーンは特にコメントしていないが、高度な知性と生来の嘘つきという二つの側面が良く表れた内容となっている。寒気を催すような欺瞞に満ちた回答は、もしかすると真の悪とはこういうものかもしれないと感じさせる。

通底した問題であるジェノサイドに関しては、多くの戦犯がドイツ人の生存圏論議を引き合いに出してくる(ベルサイユ条約後のドイツは、国民を養うだけのテリトリーをもっていないため拡大する政策をとることはやむを得ないという考え方)のも、その時代独特の要素といえる。現代政治を考えると、こうした素朴な意見が表出しているのも時代を反映している。

多くの戦犯の生育歴や経歴を通じて近代のドイツ人のあゆみを想像することも可能であるが、依然として何故ジェノサイドを行わなければならなかったは理解しがたいところがある。ユダヤ人がドイツにおいて社会の枢要を占めていた、あるいは人口比から考えても異常に高い頻度で重要なポストに就いていたことは、インタビューで度々触れられるのであるが、実際にもそうだったのであろうか。金融をはじめとする分野でのプレゼンスは確かに高かったことと思われるが、多くのドイツ人が同様の圧迫感をユダヤ人に対してもっていたかどうかはよく分からなかった。ユダヤ人とはユダヤ教の信者であるが、見かけから区別できるような人種でもなく、何がこうした憎悪を生み出すのかに関してはさらにいろいろと学ぶ必要がありそうである。近年、東方ユダヤ人がいわゆるキリストを十字架にかけた民族とは別であり、異なる民族が改宗した結果生じたことが示唆されているようである。こうした問題を含め、世界史におけるユダヤ問題は理解が難しい。

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