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zoom RSS 「ムハマド・ユヌス自伝‐貧困なき世界をめざす銀行家」ムハマド・ユヌス

<<   作成日時 : 2008/09/21 22:59   >>

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マイクロクレジットの先駆けとして知られる「グラミン銀行」の設立者であり、2006年にはノーベル平和賞を受賞したバングラディシュのムハマド・ユヌスの自伝。マイクロクレジットとは何か、あるいは貧困問題には特に強い関心がないという向きにも強く推薦したい一冊である。特にこれからどのように生きていくべきかを悩む人にとっては示唆されるところの多い自伝といえる。普段は書評というより感想を垂れ流しているだけであるが、ここを訪れた人には是非読んでいただきたいので、背中を押すような気持ちで紹介したい。

バングラディシュは驚異的な人口密度の中、自然災害も多く、国土は潜在的には豊かな国となる可能性を秘めているが、きわめて貧しい。自伝の中でも、飢饉の末、首都に集まってきた人々の死や、悲惨な境遇が、一つ一つの描写は短いものの折にふれ描かれている。マイクロクレジットでは貧しい人たちがその境遇を抜けるためのごくわずかの資本が融資されるが、その仕組みで救済されるのは、健康で、自分の能力を活かす術を知る人たちに実際的には限られるということが過不足なく描かれている。著者は「貧困なき世界」を作る上での貧困層のエネルギーと能力に大きな期待を寄せているが、一方で本当に無力な人たちをどのように救うかは別の問題として認識している。本書にはプログラムが有効でなかった、うまくいかない例についての記述が出てくるが、著者の中にはこうした問題も十分考慮の範囲に入っている。しかし、順序としては必ずしも先ではない。このあたりは、同じ貧困との戦いといってもマザーテレサなどとは一線を画す部分である。単なる施しは、援助に依存した仕組みを作り上げるだけで、貧困からの真の脱出にはつながらないという認識である。グラミン銀行の仕組みの中にその姿勢は活かされており、それが誰もが最初は気づかなかったマイクロクレジットの強靱さにつながっているものと思われる。

本書から受ける感銘は、一見して絶望的に見える状況であっても、ベストを尽くす著者の姿勢である。世界銀行とのやりとりにも端的に見て取れるが、著者はスマートな頭脳をもつだけではなく、タフな交渉者でもある。一面では、実際に考えていることを上回るような攻撃性を表出し、強い組織に対しては遠慮なく戦っている。戦いを続ける中で周囲の人たちが著者の姿勢に共感し、次第に著者の応援者が増えてくる過程は非常に興味深い。素晴らしいアイデアを出しても、次第に埋もれてしまうことが一般には多いが、著者の巧みな戦略には驚かされる。日本の明治維新の時期とよく似ていると思われるが、著者をはじめキープレイヤーはみな非常に若くして重要なはたらきに取りかかっている。その早熟さは読んでいるこちらが落ち込まされるほどである。若くて有能な人たちが国を動かす図式というのは確かに、バングラディシュならではの光景なのかもしれない。例えばより官僚制が確立した国や、あるいは先進国ではこのようなプロジェクトがこのスピードで展開することはなかったかもしれない。しかし、そうした条件でもって著者らの成果を割り引くことは難しいだろう。逆に全てのプラスの材料を無駄なく活かした手腕に感嘆すべきである。

著者の我慢強さにも学ぶところが大きい。一読して結構せっかちなところのある人であることは随所に描かれているが、一方で時間をかけなければならないと判断した場合の腰の落ち着け方には徹底したものがある。マイクロクレジットは、単なる融資ではなく、社会構造を変える仕掛けにもなっている。即ち、極めて強固な男尊女卑社会であるイスラム社会において、家庭内の女性を対象として融資を行うという方針がどれほど革命的で、強い反発を招くものであるかは想像に難くない。本書では地方におけるマイクロクレジットに対する強い抵抗に関しては、それほどたくさんの記述があるわけではないが、さぞかしたくさんの難問が、特に出だしの部分ではあったことと思う。印象的な箇所として、妻がグラミンに入ったという夫が、「家庭で今までは自由に妻を殴っていたのであるが、今ではグラミンの他の仲間から非難されるため殴れなくなった。自分の妻をどうして自由に殴れないのか。」と著者に尋ねる場面がある。そこで著者は女性解放の持論を述べるのでは決してなく、夫を「慰める」のである。強い意志をもってプロジェクトを進めるためには何が肝腎であるかを伝えるエピソードであると思う。

読了してすぐにリザルツやマイクロクレジットに関わろうという気持ちには、むしろならないかもしれない(特に先進国で同種の活動をどう運営するかに関しては、また新たな問題がたくさんありそうである)が、「生きる」こととはどういうことかを真面目に考える人には必ずや得るところのある一冊である。

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