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zoom RSS 「思考の整理学」外山滋比古

<<   作成日時 : 2008/03/18 23:39   >>

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「もっと若い時に読んでいれば・・・」という帯の惹句と、タイトルに少し記憶があったことから、文庫版を購入してみた。1986年の発刊であり、コンピュータについての記述などさすがに時代を感じさせるものがある。また、いわゆるアイデアノートに関する記述が結構な分量を占めているが、最近のこの分野の進展と比較するといかにも素朴である。一方で、知識の蓄積だけではない考える力の重要性や、コンピュータによりいわゆる学校教育の優等生が駆逐される可能性の指摘など、先駆的な指摘も行われており、その辺りがいわゆるベストセラーとして生き残っている所以かもしれない。

しかしながら、この著作の価値は、日本におけるいわゆる文系知識人がどのようにものを考えているかをあからさまに示してくれるところにある。理系の人間が、文系人間とのコミュニケーションに困っていたり、どうしても考えていることが分からないと思うときには、この本は間接的にではあるが役に立つように思う。

一つ例をあげてみよう。著者がわざわざ一つの思考が生まれる過程として紹介している事例である。最初に著者は、文章を読むと、切れ目のある言葉が隙間をおいて連なっているにもかかわらず意味の流れが生じることに疑問を持つ。しかしながら、これは疑問は疑問として寝かしておく。その後、琴の音を聞いて、音楽における残像に気づく。そして、さらに物理学における慣性の法則と、それまでの疑問を結びつけ、心理学的にも残像効果のようなものがはたらいて文章というのは意味を持つようになるという考えに至る。最後にこれを修辞的残像と名付けて一つの思考として紹介している。ちなみにこの節はアナロジーというタイトルが付けられており、後半にはわざわざ比例式をもちだしてアナロジーの意義を説明している。

率直な感想としては粗い考察というしかない。いわゆる理系の学生が読めばさぞかしがっかりさせられるのではないかと思う。著者は問題意識をもつが、それについて現在何が分かっていて、何が分かっていないかを調べることはない。既に明らかになっているかどうか、その領域の専門家がどう考えているかはお構いなしである。著者がこの疑問をもったのはいつかは特定できないが、著者の年齢を考慮すると、もう少しましな議論が専門家の間では行われていたはずである。著者が慣性の法則と残像を一緒に議論している点も見逃せない。ソーカル的な問題とも言えるが、アナロジーというわりには、一方の対象の理解が極めて浅薄である。そして、最終的に「修辞的残像」という概念をひねり出してくるわけであるが、逆にこの新しい概念から何が得られるかというと、何も得られない。ある現象にまとまりのない考察を加えて名前を付けただけである。

何が分からないのか、それはどのような問いとしてたてられるのか、どうなれば解決したと言えるか、こうし点を厳密に決定した上で考察することを理系的な課題の解決とすると、著者の勧める方法は極めて対照的である。理系的にみれば、問題設定が曖昧で、考察の対象にもならない。わざわざアイデアノートをいくつも作ってこうしたことを自由に考察することを知的な営みとして紹介されると、本当にうんざりさせられる。こんな考察はいくつあっても何の意味もないだろう。そして、この著作はベストセラーなのである。

朝は思考するには適した時間帯であり、朝食を抜いて思索するべきであるという主張も出てくる。そして、昼食後、布団をしいて本格的に睡眠して起きると一日で二回朝の時間が得られるそうである。これなども、まともに取り合える主張なのだろうか。昼に本格的に布団を敷いて眠ることができる人がどの程度いるのだろう。大学において文系の教員というのは非常にお気楽な仕事であり、家にばかりいる(大学に来ない)という印象があるが、それはこういう記述が自然に出てくるところにも表れている。

私の健康法みたいな話も出てくるが、これも長い時間をかけて蘊蓄をためてくるとそれが個人の健康法になるという話で、著者はとにかく調べることをしない。科学的背景のあるものも迷信もごった煮である。「思考」することを礼賛する本であるので、調べるようではいけないのかもしれないが、既に明らかになっていることまで我流で解釈して納得するというのは滑稽なような気もする。自閉的な考察(ひどい場合は妄想的ですらある)に溺れる人間を増やすのではなく、開かれた態度で論理的に考察できる人間を増やすことが今後の大学教育では重要であろう。本書の方法では雑文を書くことはできても、論文を書くことは困難である。本当の思考とはもっと厳しく訓練を要するものである。

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「世界は分けてもわからない」福岡伸一
著作に対する批判をしばしば述べながらも、こうして再び福岡伸一の著作を購入して読むということは、やはり私がなにがしかの関心を抱いているからだろう。科学者としての態度を維持しつつ、一般の読者に読ませる文章というものはどんなものだろうかという個人的な関心が、著者の取り組みに目を向けさせるのだろうと思う。著者を物差しにして科学者が書くものとはどうあるべきかを考えているのかもしれない。講談社現代新書のシリーズはどうもタイトルがあざといので反発したくなるのだが、おそらく出版社の方針で、著者としては連作... ...続きを見る
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